森雅子法相は12日、東京電力福島第1原発事故の際に「(福島から)検察官は最初に逃げた」と発言した問題で、安倍晋三首相から厳重注意された。

事実と異なる内容だったとして発言を撤回、謝罪したが、森氏は東京高検検事長の定年延長問題でも答弁が迷走し、泥沼化のきっかけを招いた人物。「政治とカネ」で更迭された河井克行前法相の後任ながら政権の「トラブルメーカー」になっているが、任命権者の首相はそれでも続投させる意向だ。

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森氏は12日午後、桜色のスーツで官邸に姿をみせた。問題閣僚の官邸入りは進退に絡む場合があり、緊張が走った。約20分後、取材に応じた森氏は、首相に厳重注意を受けたと表明。「法務省が確認した事実とは異なる発言で、誠に不適切だった。真摯(しんし)に反省し発言を撤回、深くおわびする」と、謝罪した。

今後については「国会審議で一層誠実に対応する」と、辞任を否定した。

森氏は9日の参院予算委員会で、黒川弘務・東京高検検事長の定年延長に絡み、検察官の定年に対する解釈変更の理由に挙げた「社会情勢の変化」に触れる中、唐突に「例えば東日本大震災の時、検察官は福島県いわき市から最初に逃げた。身柄を拘束している十数人を理由なく釈放して、逃げた」などと発言。質問した小西洋之議員に、感情的な声色で指摘した。

いわきは森氏の地元で、当時は民主党政権。小西氏も在籍した政権の対応を非難したつもりが脈絡はなく、完全に裏目に出た。

森氏は11日になって「理由なく」と「逃げた」は、個人的見解と答弁修正し、参院予算委員会では発言撤回を表明。しかし、国会は大臣が個人的見解を示す場ではない。森氏に資質なしと見た野党は反発し、12日は朝から国会がストップ。新型コロナウイルス対策の新型インフルエンザ等対策特措法改正案の衆院採決も、3時間40分遅延。森氏が国会空転の原因を招いた。

弁護士出身の森氏は河井前法相の後任だが、定年延長問題の国会答弁でたびたび迷走。先月は、政府の感染症対策本部会合を地元会合を優先して欠席、小泉進次郎環境相、萩生田光一文科相とともに首相に注意されたばかりだ。重要閣僚が2カ月連続で、任命権者に注意されるのは異例だ。

それでも首相は、厳重注意と森氏の謝罪で幕引きを急いだ。「より緊張感を持って職務を果たしてほしい」と、野党の更迭要求も拒んだが、政権のトラブルメーカーとなった森氏には今後も、野党の追及が待ち受けている。【中山知子】