小泉今日子ら著名人からも抗議の投稿が相次ぐ検察庁法改正案で、広くその名を知られるようになったのが黒川弘務東京高検検事長(63)だ。

首相官邸は黒川氏を検事総長に据えるため、今年2月の黒川氏の定年を前に法解釈を変更して定年延長。事後的に正当化するため、今回、改正案を提出した。13日の衆院内閣委員会で武田良太国家公務員制度担当相は「黒川氏のための法改正でない」と抗弁したが、「官邸の守護神」呼ばわりされる黒川氏とはどんな人物なのか。35期司法修習生として同期だった若狭勝元東京地検特捜部副部長(63)に聞いた。

「同期で一番仲が良く、若いときは家族ぐるみの付き合いだった」という若狭氏は黒川氏を「出世欲のない、性格的にも愛すべき男」と語る。検察官は政治家に頼み事をされると、「できません」と固く断るが、人当たりのいい黒川氏は「分かりました。検討してみます」と答えるという。「35期で検事総長候補に挙がっていたのは林(林真琴名古屋高検検事長)。黒川は入っていなかった」(若狭氏)。黒川氏は官房長、事務次官を7年4カ月も務め、相談役として菅官房長官の高い評価を得た。

「小渕さん(小渕優子元経産相。政治資金規正法違反事件で15年不起訴処分)、甘利さん(甘利明元経済財政担当相。URを巡る現金授受疑惑で16年不起訴処分)の事件で『守護神』と書かれたが、いくら力があっても黒川が処分を変えることは絶対ない。ごまかしの法案を急いでこの時期にやることで、『公正らしさ』が求められる検察に対する信頼が得られなくなるのが一番怖い。黒川は検事総長にならず、自ら辞めるのではないかと思っている」(若狭氏)。

半年間定年が延長された黒川氏の定年日は8月8日。首相官邸は18年7月に検事総長に就任した稲田伸夫氏(63)の任期が2年となるこの夏、交代をもくろむ。渦中の黒川氏はどう決断するのか。【中嶋文明】