浜松市天竜区を舞台にした漫画「よろずの候(こう)」(新書館刊)の最終第3巻が今年3月に全国で発売され、話題になっている。人間と妖怪、神様が織りなすのどかな日常を描き、ファンの心をつかんだ。日刊スポーツ静岡版では、浜松市在住で同作者の女性漫画家・まるかわさん(29)に書面でインタビューし、制作の経緯などを聞いた。【取材・構成 河合萌彦】

-なぜ、作品の舞台に天竜区を選んだのですか

まるかわさん(以下Mさん) もともとは趣味として書き、ウェブで公開するつもりでした。コンスタントに書くために七十二候(しちじゅうにこう、日本や中国で古くから普及している季節の区分)を入れたかったので、四季を感じる場所を探していた時、学生時代に訪れて以来、何度も足を運んでいた天竜二俣を思いつきました。二俣のほか、春野や佐久間、水窪の街並みはとてもすてきで、山に入ると急に道が細くなるところが、いかにも妖怪が出てきそうな雰囲気でおもしろいと感じました。

-作品内には、人間と変わらない性格の妖怪が多数登場します。こういったキャラクター設定にした理由は

Mさん 妖怪が出る漫画といえば、怖い話などが多いと思います。しかし、私自身が怖がりなので、登場する妖怪は、読者が身近に感じられる性格にしました。性格が近くても人間と価値観のズレがあるので、お互いに譲歩し合いながら暮らしている世界観を描けたら、と思いました。

-天竜区へ何度も取材へ行ったそうですが、印象に残ったことはありますか

Mさん 天竜区役所の方々が、住民に文芸誌を配布する様子を取材しに行った際、佐久間中へも足を運びました。そこで、校長先生から、お茶を入れるのが上手な事務員さんの話を聞きました。新茶の時期に出す漫画のネタを探していたこともあり、その話がきっかけで1話を完成することができた。関係のない取材から、おもしろい出会いや漫画のネタにつながることもあるんだなと感じました。

-今作は、地方在住の強みを生かした作品となりました。今後もこのような漫画を書いていきますか

Mさん 書くつもりです。とはいえ、地域の漫画以外のテーマにも挑戦していきたい。いろいろなものを書けるように勉強していきたいと思います。

◆よろずの候 浜松市天竜区を舞台にしたオムニバスストーリー。「天竜区・妖怪・七十二候」のコンセプトのもと、二俣町のクローバー通り商店街など、天竜区内のみどころが描かれる。登場人物の多くが同地域の方言である遠州弁を話すなど、地方色の強い作品。17年6月から「新書館WINGS」にて連載開始。単行本は全3巻。