新型コロナウイルス感染拡大の影響で、花卉(かき)業界で一目置かれる存在の福島県浪江町のNPO法人「Jin」代表川村博さん(65)も、作付けを花から野菜に一部変えるなど、収入減をカバーしようと努力している。来年の東京五輪で、もしもメダリストに贈られる副賞「ビクトリーブーケ」用の注文があれば、最高級の花を提供したい-。苦しい時期を耐えながら、花の研究に力を注ぐ。

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川村さんは手掛けた花を、全国展開する有名花店などに市場を通して出荷していた。トルコギキョウやキンギョソウは軒並み最高値をつけるなど、業界からの信頼も厚い。

コロナ禍で、卒業式や入社式など春の行事がなくなった上、大手花店も一部休業。花の需要が激減し、市場価格が大幅に落ち込んだ。川村さんのトルコギキョウは平均1本400~500円から、100円台に落ち込んだ。川村さんは「このままのペースだと、花が売れる母の日があっても、今年4、5月の収入は前年比5割減です。これまでのマイナス分を挽回するには、相当頑張らないと」と明かした。

収入減をカバーするため、さまざまな努力をしている。市場出荷本数を押さえ抑え、近くの直売所で一部を販売。仏壇用に絶えず需要があり、市場に出荷するより安定して売れるからだ。

さらに花栽培用の土地の一部で、カブや二十日大根、スナップエンドウなどを栽培。地元スーパーや直売所に卸している。福島県は緊急事態宣言が解除されたが、川村さんは今後について冷静にみている。「経済が冷え切っているから、一般の生活の中に花はなかなか入り込めない。もう少し、野菜の割合を増やそうかな。仕方ないですよね」。

苦境にあっても、目標を見失ってはいない。県産トルコギキョウが東京五輪の「ビクトリーブーケ」に使用されることが決定。川村さんは、もしも注文があれば、最高級のトルコギキョウを提供する態勢を整えるべく、研究に余念がない。1年開催延期も「花の規格が厳しいので、勉強できる時間ができた」と前向きに捉える。厳しい時期だからこそ、逆に研究にも力が入る。最近、「過去最高のトルコギキョウの苗ができた」と手応えをつかんだ。

東京五輪を目指して作られたトルコギキョウ第1弾は順調に育ち、7月下旬に出荷予定。今後、改良を重ねる。川村さんは「育ち具合を見ると、絶対にいい花ができる。今後の心配よりも、今は楽しみの方が大きい」と話している。【近藤由美子】

◆東京五輪・パラリンピックのビクトリーブーケ 花材は東日本大震災の被災地が産地のものを主に利用する予定。五輪のブーケには福島県産トルコギキョウのほか、宮城県産ヒマワリ、岩手県産リンドウ、福島県産ナルコラン、東京都産ハラン、パラリンピックのブーケには福島県産トルコギキョウ、宮城県産バラ、岩手県産リンドウ、東京都産ハランを使用予定。ビクトリーブーケ贈呈は2大会ぶり。オリ・パラで計約5000個が用意される。