異例の定年延長が批判されていた東京高検の黒川弘務検事長(63)が21日、緊急事態宣言下の今月、都内で新聞記者らと賭けマージャンをしていたことを認め、安倍晋三首相に辞表を提出した。日本の検察当局ナンバー2の不祥事にもかかわらず、森雅子法相は処分を「訓告」と発表。首相は「総理として責任はある」と口にはしたが、大甘処分で早期の幕引きを図ろうとする意図はみえみえだ。安倍政権はさらに国民の信頼を失ったといえる。閣議決定以降の「連続失点」は、どこまで続くのか。

黒川氏は、週刊文春報道を受けた法務省の調査に対し、今月1日と13日に都内の産経新聞記者の自宅マンションで、同記者や朝日新聞社員らと賭けマージャンをし、帰宅時にハイヤーの接待を受けたと認めたという。辞職願を提出した上で「報道された内容は一部事実と異なる部分もありますが、緊急事態宣言下における私の行動は、緊張感に欠け、軽率に過ぎるものであり、猛省しています」とのコメントを発表。報道陣の取材には応じなかった。

法務省が決めた処分は「訓告」だった。ある検事は「軽い。若手検事や事務官は厳しい倫理を守りながら仕事をしている。示しが付かず、組織が持たない」と憤った。森雅子法相は「責任を痛感している」と、言葉だけは責任を口にした。

後任人事では黒川氏の同期で、次期検事総長の「本命」とされてきた名古屋高検の林真琴検事長(62)を軸に調整が進んでいることが、関係者の話で分かった。監督責任が問われる稲田伸夫検事総長(63)の処遇も、今後の焦点となる。

一方、官邸で取材に応じた首相は「私としては法務省としての対応を了承したところ」と、人ごとのような口ぶり。政権は1月末、法解釈を急きょ変更し、黒川氏の定年を半年延長する閣議決定。「政権の守護神」の次期検事総長含みの人事と批判され、違法性も指摘されたが、手続きは適正、必要な人材と反論していた。その人物の不祥事。責任が問われる首相だが「法務省、検察庁においてこの人事の提示がなされた」とした上で「総理として当然責任がある。批判は受け止める」と述べただけだった。

緊急事態宣言の解除報告後、黒川氏に言及したが、約7分中3分あまり。コロナ対応の節目では会見してきたが、この日は立ったまま質問を受けた。「逃げ」の姿勢がにじんだ。

黒川氏について、法務・検察内でも辞職は当然との意見が多いが、ある検察幹部は「責任と言うなら、そもそも黒川氏の定年を延長した官邸や森法相にもある」と不満げだ。政界からも法務省からも重宝された次期検事総長候補の不祥事。甘い処分や素早い対応から、個人の不祥事のように幕引きさせる狙いは明らかだ。しかし、安倍政権のダメージは一層深まった。

<減給、戒告より軽い 退職金受け取り可>

国家公務員法82条は、国家公務員の懲戒処分として「免職」「停職」「減給」「戒告」を定め、それよりも軽いものとして「訓告」「厳重注意」がある。黒川氏への「訓告」処分の軽さがうかがえる。「訓告」は退職金も支払われるとみられる。一方、人事院の懲戒処分の指針として、賭博をした職員について「減給又は戒告とする」とあるほか、常習として賭博をした職員は「停職とする」と記されている。