人工知能(AI)の申し子、藤井聡太棋聖(17)の2代前の中学生棋士、羽生善治九段(49)は平成の将棋界に「IT革命」をもたらした。パソコンをいち早く研究手段として使い、昭和の棋譜を徹底研究した。パソコンにデータを入力すれば、局面検索をクリックするだけで盤面が出る。それを見て、次の一手を導き出す。伝統の世界に最先端の技術を導入した。

対局では、常識にとらわれない一手を「師匠から破門にされる」と先輩棋士から酷評されても、平気で出して勝ってしまう。これぞ「羽生マジック」。今の藤井の状況と似ている。

当時、少数だったパソコン研究派は徐々に増え、平成の将棋の研究を飛躍的に進歩させる。90年代前半までは盤に駒を並べて「体で覚える将棋」が主流。AIの受け入れは、羽生の台頭から必然の流れだったろう。

その羽生も、多くの後輩棋士が取り入れるAIの存在を認めている。「AIは、私たちが真っ先に考えから外した手を平気で出す。改めてAIも参考にして研究に取り入れないといけない」。9月27日で50歳を迎えるベテラン棋士でさえ、柔軟な対応を見せる。

世の中、AIに対する反発もある。オックスフォード大(英国)の「AIの登場で10年後に消える職業」といった、危機感丸出しのリポートすらある。

脳科学者の茂木健一郎氏(57)はこう言う。「AIは敵視するものではない。道具であり友達であると思えば、おじさんおばさんも怖くない」。うまく使いこなしてタイトルを獲得した藤井棋聖を、「人間界の希望」とも称した。

その令和の星について、2代目中学生棋士の谷川浩司九段(58)は、「羽生さんのいろいろな記録を破るとすれば、藤井さんしかいない」と期待する。

では、藤井棋聖はAIをどう考えているのか? タイトル獲得後の会見でのコメントが興味深い。

「数年前には棋士とソフトの対局が大きな話題になりました。今は対決の時代を超えて、共存という時代に入ったのかなと思います。プレーヤーとしては、ソフトを活用することでより自分が成長できる可能性があると思っていますし、見ていただく方にも観戦の際の楽しみの1つにしていただければと。盤上の物語は不変のものだと思いますし、その価値を自分で伝えられたらなと思います」。(おわり)【松浦隆司、赤塚辰浩】