18年3月、東京都目黒区で船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5)が虐待死した事件で、保護責任者遺棄致死に問われた母親船戸優里被告(28=1審懲役8年)の控訴審初公判が21日、東京高裁(若園敦雄裁判長)で開かれた。

弁護側は、元夫(懲役13年が確定し服役中)のDVで心的に支配されていた優里被告は、結愛ちゃんが死去する約1週間前の18年2月24日、水を張ったバケツでふたをされた浴槽に結愛ちゃんが約3時間、裸で閉じ込められる凄惨(せいさん)な虐待を目撃した衝撃で、解離性健忘状態(記憶喪失)になっていたことを初めて主張した。弁護人によると、元夫の判決が確定した19年10月末になって初めて優里被告から告白され、1審では心神耗弱を主張できなかったという。

優里被告は被告人質問でこの虐待について尋ねられると、過呼吸状態となり、「ハアハア」と荒い息の中、聞き取れないほど小さな声で「肌色の塊を見ました。(元夫には)『見たのか』と言われた」と答えた。肌色の塊ではなく結愛ちゃんだと記憶を取り戻した後、恐怖で風呂に入れなくなったという。結愛ちゃんは足に凍傷によるやけどのような痕があったことが分かっている。

優里被告は今年2月、獄中記「結愛へ」を出版した。印税150万円は、虐待した親の回復プログラムをつくっている団体、DV被害者と子どもたちの自立支援団体、結愛ちゃんと過ごした香川県善通寺市の子育てネットに寄付した。子育てネットでは「結愛ちゃん基金」も誕生している。

弁護側は優里被告を鑑定した医師の意見書、元夫の公判記録などを証拠として申請したが、高裁は被告人質問のみ採用し、他はすべて却下した。判決は9月8日に言い渡される。