新型コロナウイルス感染再拡大を受け、東京都が都内の酒類を提供する飲食店などに対し、営業時間を午後10時までとした短縮要請が3日から実施された。収束の見通しが見えない中、コロナ感染拡大予防の「新しい生活様式」を忠実に守った上での営業継続は不可能と、飲食店の存続を断念した人もいる。東京・外苑前の人気和食店「木ノ下」のオーナー、後藤知義さん(56)は「都も国も現状を知らなさ過ぎる」と話す。

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「木ノ下」は深夜まで旬の食材が楽しめる貴重な店とあって、政財界や芸能界にもファンが多かった。緊急事態宣言発令3日前の4月4日から6月30日まで休業。7月から常連客の予約だけを受ける形で、政府が発表した「新しい生活様式」を守って営業再開した。

再開に当たり、席数を3分の1以下に減らした影響から、7月の売り上げは通常の3分の1以下に落ち込んだ。感染再拡大から8月分の予約キャンセルも相次いだ。都の要請通り、3日から営業を午後10時までに短縮。さらにお盆休みを前倒しし、8日から再び休業する。再開時期は未定だ。

「人との間隔はできるだけ2メートル空ける」「料理に集中、おしゃべりは控えめに」「対面ではなく横並びに座ろう」…。政府が打ち出した「新しい生活様式」を見た後藤さんは「これらを守って営業したら、すぐに経営が立ち行かなくなるが、きちんと守らなければならない」と考えた。

さらに、休業要請協力金や持続化給付金は何の足しにもならず、冬までに経営危機に陥ると予想。店の存続をきっぱりとあきらめた。家賃は契約上、半年先まで支払い義務があった。4月に10月中旬分まで支払っているため、9月末で閉店する。今後の身の振り方は決めておらず、当面は貯金を切り崩して生活する。

最近は会食による感染が増えている。後藤さんは「利益を出そうと、『新しい生活様式』を守らず営業をしている飲食店も少なくない。特に席と席の間をあけていない店が多く、そこからクラスター(集団感染)が発生する恐れもある。僕はお客様や従業員を危険にさらすことはできませんでした」と話す。

11月に10周年を迎えるはずだったが、目前で店を畳む。後藤さんは「悔しさはありません。コロナは終わらない。これまで同様に営業するのは無理ですから」と淡々と話した。【近藤由美子】