今回も突然の辞意表明だった。安倍晋三首相(65)は28日、官邸で会見し、辞任を表明した。持病の潰瘍性大腸炎が悪化し、国民の負託に応えられなくなるのを避けたかったという。病院を受診した24日に決断。新型コロナウイルス対策もまだ途中。葛藤があったと目を潤ませた。後任を選ぶ自民党総裁選は党員・党友による投票を省略した形で、行われる見通し。国民的人気が高い石破茂元幹事長(63)を警戒した「石破つぶし」との見方もある。

「もう少しできないかという葛藤が、なかったわけではない」。首相は辞任を表明した会見で、目をうるませた。17日に慶応大学病院を受診後、持病の潰瘍性大腸炎の悪化による体調不安が指摘され出した。24日の2度目の受診後、「またこれから仕事を頑張りたい」と話したが、実際はこの日に辞任を判断していた。辞任は、1人で決めたという。28日の閣議後、盟友の麻生太郎財務相とは1対1で35分、向き合った。第1次政権でも、麻生氏には事前に辞意を伝えていた。

これまでは薬でコントロールしてきたが、今年6月の定期健診で再発の兆候がみられ、7月中旬、体調に異変が生じた。8月上旬、再発を確認。新たな薬を投与し効果は確認されたが「病気と治療を抱え体調が万全でない中、大切な政治判断を誤り、結果が出せないことがあってはならない。このまま総理大臣の地位にあり続けるべきではないと判断した」と述べた。

「首相辞意」の一報がNHKで報じられ、永田町を駆けめぐる電撃的な展開は第1次政権と同じ。新型コロナも収束しておらず、国民に「おわびを申し上げたい」と謝罪した。

第1次政権のような「投げ出し辞任」としないため、新型コロナウイルス感染症対策パッケージで形だけは整えた。しかし、質疑応答では、結果的に「投げ出し」となったことへの説明を問われた。首相は「批判は甘んじて受けなければならない」と、答えた。

「自分の手で」と悲願を持ち続けた憲法改正や北朝鮮による日本人拉致問題の解決にも至らず「断腸の思い」と、語った。次期総裁決定までは仕事を続け、退陣後は「一議員として仕事をしていきたい」。政界引退はしない意向だ。

自民党は後任の自民党総裁を選ぶ総裁選の時期や形式を二階俊博幹事長に一任した。国会議員と都道府県連代表3人による簡略投票で実施する見通しだ。

首相は後継について「私が申し上げることではない」と述べたが、岸田文雄政調会長が意中とみられてきた。派閥の論理がまかり通る国会議員票を中心とした投票で、国民的人気は高いが議員の人気は低い石破氏を封じ込めるとの見方もあるが、幅広い声を反映させた「開かれた総裁選」にすべきとの声は、強い。

第2次政権発足から約7年8カ月。連続在任期間歴代1位を24日に達成してまだ4日だ。日本政治史に残る「1強」時代を築いた安倍首相。突然の「強制終了」となった。【中山知子】