安倍晋三首相の後継を決める自民党総裁選は8日告示され、石破茂元幹事長(63)、管義偉官房長官(71)、岸田文雄政調会長(63)が立候補届を提出し、14日投開票へ三つどもえの選挙戦に突入した。3候補は所見発表演説会、共同記者会見を行い、新型コロナウイルス対策など主な争点について論じたが、党役員や組閣人事、衆院の解散総選挙などは具体的に踏み込まなかった。

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コロナ禍の「特別な夏」に辞意表明した安倍首相の後継レースが幕を開けた。14日、両院議員総会での投開票まで7日間の短期決戦となるが、3候補の論戦からは熱気と興奮は感じられなかった。安倍政権を支えた菅氏は争点として新型コロナウイルス対策と、経済の立て直しを挙げ、「縦割り打破し、既得権益を取り除いてきた」と実績をアピール。岸田氏は「安倍政権の7年8カ月は高く評価する」と、安倍政治を継承を唱えた。

一方で安倍政治に批判的な石破氏は「地方の潜在力を最大限引き出さないと日本の国内総生産は維持できない」と地方創生を掲げ、「東京が抱える負荷が大きすぎる」と、東京一極集中の打破を唱えたが、3候補ともに具体的なコロナ禍政策は乏しかった。

告示前から菅氏優勢の情勢だ。最大派閥の細田派ら党内7派閥のうち5派閥から支持を得て、すでに394の国会議員票の約7割は菅氏にまわるとされる。47都道府県連141の地方票を岸田、石破両氏のいずかが獲得しても大勢は変わらないとみられている。

関心は早くも党役員人事、新内閣の閣僚人事に移っている。無派閥の菅氏は多派閥の支持を得ているだけに各派閥の意向を無視できないとみられている。「派閥均衡を考えていたけど」と、派閥のバランスには否定的な見解を示したが「人事というものは適材適所である」と言及を避けた。岸田氏は「(解散は)いつとは言えない。自民党は人材の宝庫。オール自民党でドリームチームを」、石破氏は「衆院解散は(一時的に)参院議員だけになる。任期をまっとうすべき」と持論を述べた。

憲法改正について石破氏は「改憲草案に立ち返るべきだ」とし、敵から攻撃を受ける前に自衛隊が敵基地を攻撃する能力に関しては「憲法上は可能だ」と従来通り、主張した。菅氏は「結党以来の党是だ。改憲すべきだ」としたが、岸田氏「国民にしっかり考えてもらう」とするに留めた。

新総裁の任期は安倍首相の残り任期である来年9月末日まで。後継首相を決める戦いが静かに始まった。【大上悟】

 

◆石破茂(いしば・しげる)1957年(昭32)2月4日、鳥取県生まれ。慶大卒。父は鳥取県知事、自治相の故二朗氏。86年衆院選で初当選。当選11回。第1次小泉内閣で防衛庁長官として初入閣。防衛相、農相、地方創生担当相を歴任。自民党幹事長や政調会長など、党要職も務めた。血液型B。

◆菅義偉(すが・よしひで)1948年(昭23)12月6日、秋田県生まれ。法政大卒。96年衆院選に初当選。当選8回。12年第2次安倍内閣で内閣官房長官。16年7月、内閣官房長官の在職期間が1290日となり、歴代1位に。官房長官として新元号「令和」を発表し、「令和おじさん」の愛称を持つ。血液型O。

◆岸田文雄(きしだ・ふみお)1957年(昭32)7月29日、東京都生まれ。早大卒。日本長期信用銀行勤務後、父・岸田文武衆院議員秘書を経て、93年衆院選で初当選。当選9回。安倍首相とは初当選同期。外相、党国対委員長などを歴任。祖父も衆院議員、宮沢洋一元経産相はいとこ。広島1区。血液型AB。