将棋の高校生プロ、藤井聡太2冠(棋聖・王位=18)が5日、大阪市の関西将棋会館で第70期王将戦の挑戦者決定リーグ2回戦で豊島将之2冠(竜王・叡王=30)に挑む。同じ愛知県出身の豊島には、これまで5戦全敗。藤井にとっては絶壁のごとく立ちはだかる“ラスボス”だ。日本で唯一の元プロ棋士で人工知能(AI)学者の北陸先端科学技術大学院大学の副学長・飯田弘之氏(58)に「なぜ苦戦するのか」を聞いた。

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「元プロ棋士」であり「AI学者」。日本で唯一、2分野の専門家である飯田氏は「AI的な感性からみると、2人の指し手はすごく似ている。もっと言うと、藤井さんの読み筋と豊島さんの読み筋は合う」。年齢は一回り違う2人だが、将棋ソフトを研究に取り入れ、飛躍的に棋力を高めてきた。

AI学者としては、2人に対する印象は違う。17年6月、藤井はデビューから無敗のまま「公式戦29連勝」を達成した。中学生プロの快挙以上に、驚いたことがあった。「コンピューターの将棋ソフトの指し手のクオリティーをここまで取り入れてやっているとは…」。コンピューターの動作原理をよく理解し、すでにAIの本質をつかんでいると感じた。

さらに藤井が「進化」を見せたのは、史上最年少でタイトルを獲得した棋聖戦5番勝負の第2局。AIが長時間かけて6億手まで検討すると、絶妙手と分かった「3一銀」。藤井は短時間で指した。「AI超えの神の一手」に飯田氏は「早い段階で候補手から切り落としてしまうような手も、落とさずに読める深い感性を持っている。それをAIから会得している」と分析した。

14年、プロ棋士と将棋ソフトが5対5の団体戦で戦った第3回電王戦。当時七段だった豊島はただ1人、ソフトに勝った。間近で観戦した飯田氏は「AIにトラップ(わな)をかけるわけではなく、自然な勝ち方をした。AIを負かすお手本みたいな対局で、AIの弱点を見抜いていた」。その上で、藤井が苦戦する1つの理由として「豊島さんは、藤井さんがAIから会得した強さとは別の面の強さを会得しているのかもしれない」と推察した。

小学6年のとき、藤井は当時24歳の豊島と練習で対戦したことがある。元棋士の視点として飯田氏は「豊島さんは、プロになり強くなる前の藤井さんの考え方を知っている。もしかしたらそういうのもあるのかもしれない」と話した。2人の6度目の対決。「AIという未知の知性からどう学び、AIの技をどう人間の所作に取り入れていくのか」。柔軟さを併せ持つ2人の戦いを、異色のAI学者も注目している。【松浦隆司】

◆第70期王将戦挑戦者決定リーグ(王将リーグ) 渡辺明王将への挑戦権を争う王将リーグは7人の総当たり戦。藤井2冠、豊島2冠、羽生善治九段、広瀬章人八段、永瀬拓矢王座、木村一基九段、佐藤天彦九段と全員がタイトル獲得経験者。1回戦で藤井は羽生に黒星、豊島は木村から白星を挙げた。

◆飯田弘之(いいだ・ひろゆき)1962年(昭37)1月17日、山形県生まれ。AI学者。元プロ棋士(七段)。中学2年で上京しプロ棋士養成機関「奨励会」に入る。上智大理工学部3年のとき四段に昇段しプロ棋士。故大内延介九段の一番弟子。94年、東京農工大でコンピューターの研究を続け、博士号を取得。同年、棋士としての活動を休業。今春から教授を務めていた北陸先端科学技術大学院大学の副学長。「コンピューターは名人を超えられるか」など著書多数。