全国各地でクマが出没し、人身被害が相次いでいる。7日には石川県小松市の住宅街で、住民の70代女性がクマに襲われ、けがをした。専門家はクマの餌となるブナやナラの凶作の他、「世間知らずの子熊が、町に現れ走り回る“2歳児問題”」が原因となっていると推測。「十分に気を付けてもらいたい」と警鐘を鳴らした。

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環境省による全国のツキノワグマとヒグマの有害捕獲数は、17年は3952頭、18年は3586頭、19年は過去最高の6285頭だった。今年は8月時点で既に3207頭に上り、増加傾向が続いている。

被害が相次ぐ新潟県では本年度、クマの出没情報が既に700件を超えているという。昨年、同県での人身被害は16件で20人。調査史上最多の年となった。被害は10月、11月の冬眠前の時期に約7割が集中していた。今年は9月の下旬から被害報告があり、10月5日時点で6件、7人と昨年を上回るペースだ。加えて、クマの餌となるナラやブナの実が、昨年以上に凶作と報告されており、甚大な被害に及ぶ可能性が懸念される。県の鳥獣被害対策センターは10月、11月を「クマ出没警戒強化期間」とし、住民に注意を促している。

日本ツキノワグマ研究所の米田一彦氏(72)によると「今年は、2歳になるクマが多い。人を恐れない世間知らずの子熊が、人里に現れ走り回る“2歳児問題”が起きやすくなるだろう」と推測。17年は餌となる木の実が暖冬のため豊作で繁殖が進み、18年生まれのクマの数が増えていたという。

新型コロナウイルスによる街中への人の増減が、クマの出没に影響しているという見方もある。米田氏は「5月、6月は確かに町並みが静かになり、その影響でクマが山から下りてきているという報告を聞いている」と話した。一方で、最近は人の動きが戻りつつあるが、2歳児問題などがありクマの出没は減らないと指摘した。

米田氏は「2歳児問題と今年の冬が暖冬かどうか。ドングリなどの餌が凶作ならば大人の雄のクマも下りてくる」と指摘。「毎年、重傷を負ったと聞くのもこの後の時期だ。十分に気を付けてもらいたい」と注意を呼びかけた。【沢田直人】

○…ツキノワグマの生態は、成獣で体長120~145センチ。体重は60~100キロ前後、雄の方が大きい。嗅覚は犬並み、視覚は人並み以上に優れている。聴覚は高音に敏感で低音に鈍感。走るスピードが速く短期間ならば、時速50キロ程度で走ることができる。爪のたつ物であれば垂直の壁も上ることができる。性成熟は、雄で2~4歳、雌で4歳とされている。ドングリや堅い木の実、昆虫類などを食べ、基本的に肉食も植物食もできる雑食。蜂蜜などの甘い物も大好き。

<最近の主なクマによる人身被害状況>

▼6月1日 岩手県で女性が襲われ、顔などに重傷

▼8月9日 長野県でキャンプ場に現れ、テント内にいた50代女性の足を引っかき、10針を縫うけが

▼同18日 岩手県で40代男性宅に侵入、窓ガラスを割り冷蔵庫や生ごみをあさる

▼9月6日 鳥取県で水路を清掃していた80代男性が左足をかまれる

▼同30日 福井県で草刈りをしていた男性が襲われ約2週間のけが

▼10月1日 新潟県で3人が相次いで襲われる。70代女性は顔や頭をけがし意識不明の重体

▼同2日 福島県で50代男性が、駅付近の住宅街で右手左足を引っかかれ軽傷