鎮痛薬「ケロリン」で知られる富山めぐみ製薬(富山市)が、同社の商品名入りで銭湯などで利用される「ケロリン桶」が、全国の一部の飲食店で食器や酒を提供する器として利用されていることを受け、通常の食器に差し替えるよう注意喚起したことが15日、分かった。インスタ映えするからと、約2年前から首都圏を中心に東北から九州の少なくとも50店舗が使用。一部に保健所の調査、指導が入っており、関係者は「安全性は担保できない」と警鐘を鳴らした。

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銭湯で子供が蹴飛ばしても大丈夫なほど頑丈で「永久桶」とも呼ばれるケロリン桶が、想定外の形で使われていることに製薬会社として黙っていられなかった。約2年前、一部の飲食店がケロリン桶に酒を入れ、客がSNSにアップして「インスタ映えする」と評判を呼んだことに端を発し“ケロリン桶酒”をメニューに入れる店舗が首都圏を中心に全国で増加。そのことを憂慮し、富山めぐみ製薬は鎮圧に動きだした。

ケロリン桶の素材はポリプロピレンで、商品名などはたわしでこすっても落ちないようインクを樹脂の内部に埋め込む「キクプリント」という特殊技術で印刷されている。薬の広告として作られた業務用製品だが、30年ほど前から店舗を限定して一般に販売し、10年前から品質表示も入れた。ただ、食品衛生法上の食器ではないため規格適合、溶出試験を行っておらず、有害物質が含まれ、健康を損なう恐れのある器具は営業上、使用してはならないと規定された同法15、16条に抵触する可能性がある。同社東京支社の北村学さんは「(飲食物の)温度が高いと劣化し、ひびが入ればインクのかけらが出てくる可能性がある」と説明した。

居酒屋でのレモンサワーなどの酒類提供を中心に、ラーメン店でも食器としての使用が確認された。同社は店に連絡し、中にはアルバイト店員への問い合わせから2カ月かけ社長に使用停止を訴えたこともあった。情報サイトにもメニュー、写真を掲出しないよう呼び掛けた。一部の店には保健所の調査、指導も入っているというが、ラップを貼るなどして使用を続けるなど注意に応じない店もあり、社としての喚起に踏み切った。

管理薬剤師でもある北村さんは「100万個作って、1個ダメでもNGというクオリティーで薬を作っている。口に入れる食品の容器に使った場合、安全性は担保できない」と断言。さらに「コロナ禍の中、おけを使って飲食することは感染リスクを高めます」と訴えた。【村上幸将】

◆ケロリン桶 富山めぐみ製薬の前身・内外薬品が、東京五輪前年の1963年、衛生上の問題から銭湯の湯桶が木から合成樹脂に切り替えられるタイミングに、風呂おけに広告を入れないかと打診されたことをきっかけに制作。東京駅八重洲口の東京温泉に設置したのを皮切りに、全国の銭湯、温泉、ゴルフ場などに延べ250万個納入し、現在も年4、5万個を納入。重さ360グラム、直径225ミリ、高さ115ミリの「A型(関東)」と、入浴前に湯船から湯をくみ、体にかける習慣がある関西向けに小さくした重さ260グラム、直径210ミリ、高さ100ミリの「B型(関西)」がある。