宇宙食の進化がすごい! 野口聡一宇宙飛行士(55)が先月17日から国際宇宙ステーション(ISS)で、来年4月まで約半年間のミッションに臨んでいます。

3度目の長期滞在となる野口さんは今回、最新多彩な「和食」を堪能します。栄養摂取だけの時代は、もう昔。B級グルメの野口さんが待望していた驚きの宇宙「おやじメシ」を、紹介します。今月から月の第1週は「深掘りトレンド」として、話題のニュースを深掘りしてお届けします。【取材・大上悟】

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3度目の宇宙に滞在している野口さんが、「3度のメシ」を待望の和食で味わえる時代になった。ISS到着後の初会見が先月24日、米航空宇宙局(NASA)の管制センター経由で行われ、野口さんと同年代の記者は、B級グルメトークで盛り上がった。「から揚げとか焼きそばとか、いかにも50代のおっさんが好きそうな(笑い)宇宙食が並んでいる」。おやじネタには鋭く反応してくれる野口さん。いつもの“おやじ口調”で宇宙から語りかけてくれた。

野口さんは初の民間宇宙船「クルードラゴン1号機」に搭乗し、宇宙に出発。民間宇宙船の成功で商業宇宙旅行を楽しめる時代が近づく中、宇宙食も革新的に進歩している。固形食、チューブ容器入りのゼリー状のものを生命維持のために摂取するイメージは、もはや過去のもの。JAXAは45品目を日本食として認証。日本の「認定宇宙食」はカップ麺、から揚げ、焼き鳥など、普段から食べているメニューばかりだ。

「スペースからあげクン」は、コンビニ大手のローソンが「から揚げが食べたい」という宇宙飛行士の要望を受けて開発した。苦労もあったようだ。「そのままフリーズドライ化した時、周りの衣が崩れてしまった。宇宙空間で飛び散ってしまうので、衣が肉に密着して、かみ切らなくても食べられる一口サイズに」(ニチレイフーズ研究開発部)。試食した野口さんは「おいしい。ぜひ、もっていきたい」とツイッターに投稿した。「製法は企業秘密ですが、素材は(市販品と)まったく同じ」(同)。サンプルを試食してみると、スナック菓子のような歯ごたえだが、かめば、肉と揚げものの味がしっかり感じられた。

「アジの干物」も登場した。愛媛・東温市の干物メーカー・キシモトの「スペースまるとっとアジ 燻製しお味」だ。同社の岸本賢治専務(80)は「干物は長くて3日ぐらいしか持たない。1年半以上持たせるため、水分を飛ばした上で破片が飛び散らないよう、しっとり感を残すのが難しかった」と、話す。

野口さんから「宇宙で大好物の焼きそばを食べたい」とオファーを受け、日清食品HDは「スペース日清焼そばU.F.O.」など計7品を開発した。麺は飛び散らないよう一口大の塊状麺で、スープやソースの粘度も高められている。未確認飛行物体(UFO)には遭遇できなくても? 「U.F.O.」は楽しめる。

焼き鳥の缶詰やちりめんサンショなどもあり、まるで晩酌セットをほうふつとさせる。お正月用には「切り餅」や日本の補給機「こうのとり」が国産のミカンやレモン、タマネギなどの生鮮食品も補給する。宇宙食はまさにグルメ時代だ。

日本食は外国人宇宙飛行士にも大人気。「感謝祭や記念日に出しますがなくなってしまう」と、野口さんも争奪戦を警戒している。「50代でも過酷な船外活動ができることを証明したい」と意欲全開の野口さん。特選和食で心と体をいやし、おやじパワーをアップしてミッションに臨んでくれそうだ。

 

◆柿の種も宇宙デビューだ。亀田製菓の「亀田の柿の種」は2017年に認証され、中身が市販品と一緒なのが売り。無重力状態でも中身が飛び散らないよう、ジッパーで繰り返し開閉できる容器に入る。「宇宙空間で飛び散ると、狭いところに入ってしまったりするので割れないよう工夫している」(同社経営企画部)。実際に試食すると、さくっとした、まったく普通の柿の種だった。

餅だってある。越後製菓の「切り餅」も市販品と同じ原料と製法だが、くっつきにくい特殊フィルムで1つずつ個別に包装し、加熱調理もできる。野口さんの新年用にと照準を定めているようで「楽しみにしてます」と期待を寄せる。

福井県立若狭高の生徒が開発した「サバ醤油味付け缶詰」については、宇宙滞在中の野口さんが食べて「大変、おいしい。宇宙食はバラエティーが大事」と、一気食いした逸品だ。

 

◆宇宙食の主な認定条件

<1>安全性 容器や包装が燃えにくい。燃えた場合でも、人体に有害なガスが発生しない。

<2>長期保存が可能 常温で少なくとも1年半の賞味期限があり、食中毒などを予防するための衛生性を確保する。食べる時に危険要因が発生しない。

<3>電気系への障害防止 液体を含む食品は飛び散らないよう、食品を封入するパッケージに付属した吸い口やストローを使用。そのまま食べる食品については飛び散らないよう粘度を高め、とろみをつける。

<4>空気清浄度への障害防止 微粉を出さず、特異な臭気を発しない。

<5>安全基準 日本製食品は日本の食品安全基準を順守する。

 

◆宇宙食 有人宇宙飛行がスタートした1960年代から開発されてきた。かつては固形食やゼリー状の食べ物をチューブから直接摂取するものがほとんど。必須栄養素のみが配合されたもので宇宙飛行士の評判も悪かった。70年代には湯が使えるようになり、湯で戻してスプーンで食事ができるメニューも増えた。80年代以降は給湯設備も進化し、レトルトやフリーズドライ食品、半乾燥品、加熱できるものも登場した。

JAXAによると1日の摂取カロリーは男女別、年齢、体重で管理されるが、地上で必要とされるカロリーとほぼ同じ。船外活動を行う場合は、500キロカロリーを余分に摂取するという。

 

◆国際宇宙ステーション(ISS) 米国、ロシア、日本、カナダ、欧州が2010年から運用する有人宇宙施設。高度約400キロの軌道上にあり、地球を約90分で1周する。地球や宇宙の観測や無重力空間での研究や実験を行う。日本の実験棟「きぼう」もあり、今回は移植可能な人の肝臓の再構成や抗がん剤の開発につながる、タンパク質の結晶の精製実験などを行う。