新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐり22日、政府内に早くも不協和音が生じた。河野太郎ワクチン担当相は、21日に政府が発表したワクチン接種日程を削除すると表明したが、実際に発表した坂井学官房副長官はこれを拒否。情報共有をめぐる混乱が露呈した。政府内の調整役ながら、“暴走”が懸念される河野氏。野党に「令和の壊し屋」と指摘され「令和の運び屋と言われるように頑張る」と反論したが、政府内には不安が広がる。

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ワクチン接種をめぐる政府内の「舌戦」。ドタバタ劇の幕を開けたのはワクチン担当の河野氏だ。

午前の会見で「まだ供給スケジュールは決まっていない。決まり次第お知らせする」と述べた。21日に坂井氏が「6月までに接種対象となるすべての国民に必要な数量の確保は見込んでいる」と発表したばかりだが、河野氏は「供給スケジュールはまだ決まっていない」とした上で、発言の削除を表明。坂井氏は午後の会見で「齟齬(そご)は生じていない。発言は撤回しない」と猛反発した。

河野氏は菅義偉首相に近く、ワクチン接種の総合調整を担う肝いりの特命大臣として指名された。対する坂井氏は、首相を支える無派閥グループに属し、昨年9月の自民党総裁選でも支援した忠臣。いずれも首相側近だが、ともに根回し不足がアキレス腱(けん)といわれる。菅政権の命運を握るワクチン接種をめぐり、身内同士の不協和音。首相は河野氏の手腕を「複数の役所にまたがる困難な課題をまとめている」と評価するが、閣僚同士の対立にも「総合調整」が必要だ。

河野氏の調整力は、参院代表質問でもやり玉に挙がった。国民民主党の榛葉賀津也氏は「自他ともに認める、令和の壊し屋」と河野氏を挑発。「大規模なワクチン接種に求められるのは根回しだ。防衛大臣当時のイージスアショアの一件を見る限り、最も苦手な点とお見受けする」と、急転直下で計画を中止した判断を、皮肉まじりに指摘した。 河野氏は「早ければ2月下旬から医療従事者に接種できるように準備する」とした上で「“令和の(ワクチン)運び屋”と、呼ばれるよう頑張る」と応戦したが、自民党内では「河野氏の根回しべたが早くも出た」と不安の声が上がる。

しかし河野氏はどこ吹く風。22日、官邸ホームページにワクチンに関する特設サイトを立ち上げ、早期接種開始への意欲をビデオメッセージで訴えた。野党幹部にスムーズな情報発信への協力を直接電話で要請するなど精力的に動くが、政府方針を一夜で一蹴する「ちゃぶ台返し」に周囲は戦々恐々。暴走か、英断か。「河野劇場」は始まったばかりだ。  【大上悟】