アフリカ・ガーナのスラム街に投棄されてゴミ山のようになった“電子機器の墓場”を再生して、現地の子どもらの希望を生み出す-美術家MAGOさん(36)は、電子機器の廃材を使ってアート作品にすることに命を懸けている。14日から東京・新宿で約240点を集めた展示会を実施する。

準備に追われる開催前夜13日にMAGOさんになぜ廃材利用なのかを聞いた。

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Tシャツ姿のMAGOさんは「ガーナの人たちがかわいそうだから助けてあげよう。それは違うんですよね」と腕を組んだ。

ガーナには、どこまでも続く電子機器のゴミ山がある。先進国で廃材となった電子機器たちだ。ゴミの山となっている場所はスラム街アグボグブロシーというエリア。のろしのようにたちのぼる黒い煙、炎のすぐ近くには煤煙にまみれて現地の若者らが点在する。電子機器の廃材を燃やして、お金になる材料を探し出す。1日の日当は日本円にして、500円ほどにしかならない。

結果、成長すると煤煙を多く吸い込んだからなのか、がんを発病して命を落としてしまう。そんな事例ばかりだ。希望も何もない。

2016年の春、MAGOさんは1枚の写真に目を奪われた。米誌「Forbes」に掲載されたゴミだらけの山の中で1人の子どもが廃材を手に持っている写真だった。撮影場所はガーナではなかったが、大きく衝撃を受けた。調べていくうちにガーナに「世界最大級の電子機器の墓場」があることを知った。いてもたってもいられずにガーナに飛んだ。

MAGOさんは福井県の出身。18歳で故郷を飛び出て東京での成功を夢見た。死にものぐるいで働いて、アパレルの会社を起業したが、倒産して無一文になった。

「無職とは周囲に言えなかった。アーティストとして、もう路上で絵を描くしか選択肢は残っていなかった」。

路上で絵を描くようになってから、ガーナの「電子機器の墓場」の存在を知った。

「アートの力は世界を変えられるのか。廃材は資源にならないのか」。

ガーナから持ち帰った廃材を使って作品をつくった。なんと1500万円の値がついた。その利益を元手にして防塵マスクを購入してガーナに持ち込んだ。これまでに1000個以上のマスクを現地の人らに提供している。

「寄付という言葉は好きではないです。だって、寄付で多額のお金が集まったことが目標になって、その後がないじゃないですか。継続できる資本主義社会をどうつくっていくか。現地の若者はケンカっぱやくてすぐ入院する。で、たとえば治療費に5万円とかかかる。僕がその金額を負担するけど、その代わりに5万円分の作品をつくらせる。彼らは必死になってつくりますよ。つくりだす喜びを知るようになると、目の色が変わる。ガーナには少しずつですが希望が生まれているんだと思います」。

MAGOさんには夢があって、2030年までに電子機器の廃材を資源としてプラスチックの原料に再生する工場建設しようとする青写真があった。

「でも、お金を貯めてから工場をつくったのでは遅いんです。とにかく小さくてもいいので、できるだけ早く再生工場をアグボグブロシーにつくりたいんです。最初の工場ができたら、つぎはぎでいいから、工場の規模をどんどん大きくして、廃材はゴミではなく、お金を生む資源というように現地の人らに思ってもらいたい。継続できる資本主義社会はガーナのゴミの山からスタートできることを証明したい」。

ガーナにはこれまで5回渡航した。昨年だけで625作品をつくり出した。

「このゴミがなくなればいい。材料の廃材がなくて、僕が作品をつくれなくなって困るようになるのが理想です」。

新型コロナウイルスの影響で公開が遅れたが、ガーナでの様子を撮影した90分のドキュメンタリー映画も完成間近だ。

「今年公開したい。ロスから順次、世界に発信していきます。成功させますよ。なにせ命を懸けてますから」。

14日から伊勢丹新宿店でガーナの電子機器のゴミからつくった作品での展示「天命回帰/Still A“BLACK”STAR」をスタートさせる。