東日本大震災で被災した翌年の12年選抜高校野球に21世紀枠で出場し、選手宣誓を行った石巻工(宮城)野球部元主将の阿部翔人さん(26)が16日、仙台一野球部副部長として母校と初対戦した。昨秋に5度目の挑戦で宮城県教員採用試験に合格し、今年4月から初任地の仙台一へ赴任。初の公式戦となった春季宮城県大会で責任教師としてベンチ入りし、チームは6-0で勝って3回戦進出。阿部さんは「子どもたちが次の主役になれるよう、支えられるように頑張っていかないといけない」と決意を新たにした。

ちょうど10年前の11年5月は、震災の後でようやく前を向き始めた時期だった。津波被害で丸2日間は石巻工の校内で避難生活も経験。周囲の支えがあったからこそ、その後に野球も再開でき、少しずつ心も町も復興し、甲子園でプレーする夢もかなったことは忘れていない。あれから10年。「今の子もコロナで地区大会は出来なかった。その中で県大会が開催され、野球がやれていることは幸せだなと感じました」。

東北有数の進学校に赴任して2カ月がたった。授業だけでなく、グラウンドではノッカーや打撃投手を務めるなど交流を密にしてきた。「生徒がしっかり考えて行動していることを尊重しながら、サポートしていく大切さも勉強させてもらっています」。教師として球児の姿に触れる中で、自身が震災以降、いかに支えてもらってきたか、あらためて実感させられている。

試合とほぼ同時刻には岩手・陸前高田市出身で津波で父を亡くしたプロ野球ロッテ佐々木朗希投手が1軍初登板を果たした。「コロナ社会の中、スポーツの力で東北、日本中を明るくしてくれる。ポテンシャルもすごい。(自身と同学年のエンゼルス)大谷翔平選手がメジャーで頑張っている姿も含めて、被災地を勇気づけてくれる」。大谷、佐々木に続くような教え子育成に向け、阿部先生もデビューしたばかりだ。【鎌田直秀】

◆阿部翔人元主将の選手宣誓 12年3月21日、センバツ開会式で「宣誓。東北大震災から1年。日本は復興の真っ最中です」と始めた。伝えたかった言葉の1つは「日本が1つになり、その苦難を乗り越えることが出来れば、その先に必ず大きな幸せが待っていると信じています」。さらに「だからこそ日本中に届けます。感動、勇気、そして笑顔。見せましょう、日本の底力、絆を」と訴えた。日体大卒業後、17年4月に石巻高の保健体育非常勤講師、翌年から同校野球部コーチ。今年4月に仙台一の教師として赴任。