菅義偉首相のお膝元、秋田県湯沢市で8日、東京オリンピック(五輪)開催の賛否両論がある中で、聖火リレーが行われた。

地元を盛り上げている市民や出身者14人が聖火をつなぎ、街は首相誕生以来の活気。日刊スポーツでは湯沢市内の繁華街などで開催に関する100人アンケートを実施。観客の有無を含む開催派が69%と中止派25%を大きく上回る結果となった。

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開始1時間前からの激しい雷雨。「菅政権と一緒じゃないか」とつぶやく沿道で待つ観覧者。だが、5分前に太陽が顔を出した。菅氏の湯沢高後輩で秋田県第1走者を担ったオペラ歌手の中鉢聡さんは「直前で晴れたので、五輪で選手が活躍してくれる明るい兆しがあるのかなと思った」。祭りなどの地元行事の中止が相次いでいる中、沿道からは「やっぱり元気が出るな~」の声も飛んだ。

5月15、16日の共同通信による全国電話世論調査では「中止するべきだ」が59・7%。湯沢駅など数カ所で、市民にも五輪開催の意見を聞いた。五輪に好意的な意見を持つ人が多いとみられる沿道が約半数であることを考慮しても、湯沢の中止派は24%だった。50代男性は「菅さんはやるって言っているけれど、今回はやるべきじゃない。外国からもたくさん日本に来るわけだし、リスクは高い。出来る根拠をしっかり示してくれないと納得出来ない」と強い口調だった。

一方、20代女性が「アスリートを含む関係者の方の感染対策はしっかり出来ると思うが、一般の方までは難しいと思う。それでも長く準備してきた選手の頑張る姿はテレビで見たい」と無観客開催派。70代男性は「やるなら人数制限で客を入れるべき。拍手だけでも選手の力になる。それに野球やJリーグはやれているのだから。でもパブリックなんとかはダメ。必要ない」。有観客を希望する市民が35%と一番多かった。

湯沢市は川連こけし、秋田仏壇など、県内屈指の伝統産業発展の地だ。走者を務めた地場産業「稲庭うどん小川」の女将(おかみ)、小川選子(よりこ)さんも五輪の機運上昇を願う1人。「トーチは思った以上に重かった。家族や知人に感謝を伝えたいと思っていたけれど、園児や知らない人まで応援してくれて、逆にパワーをいただいた」。自身もコロナ禍での観光客激減に負けず、海外向け通信販売の新規事業などに挑戦中。「本当は五輪にちなんだ5色のうどんの準備していたのに、そういうムードではなくなってしまった」とお蔵入り。「菅さんは高校の先輩。もうちょっと、うまくしゃべれば良いなさな~とも思うのですが、口が重いのも秋田人の特徴です。対策さえすれば感染拡大しないことが証明される明るい光となる五輪になってほしい」と願った。【鎌田直秀】

◆8日の聖火リレー 秋田初日は7市町を巡った。横手市出身のタレント壇蜜は、昨年11月に他界した祖母隆子さんの遺影を抱える母昌子さんに見守られて走り「楽しみにしていたおばあちゃんには見てもらえなかったけれど、しっかり走ろうと意思を固めて前に進むことが出来た」。五輪にも「感染症で人が離れがちな風潮ですが、心がつながっていないと困難に立ち向かっていけないことは五輪もコロナも同じなんじゃないかなと思う」と話した。大仙市在住で俳優の柳葉敏郎は「こんなに楽しくうれしい時間を長く感じられたことはなかったです。幸せです」とかみしめた。男子レスリングでロサンゼルス、ソウルの2大会連続銀メダリスト太田章氏、18年夏の甲子園で吉田輝星投手らを擁して準優勝した金足農野球部の中泉一豊監督らも秋田市で聖火をつないだ。9日は元プロ野球選手の山田久志氏、格闘家の桜庭和志、大相撲の押尾川親方(元関脇豪風)らが登場し、なまはげで有名な男鹿市など7市町村で行われる。