東京パラリンピックが閉幕し、まもなく1カ月。大会期間中、東京2020パラリンピック大会公認の渋谷区文化プログラム「MERRY SMILE SHIBUYA」を企画・運営したアートディレクターの水谷孝次さんが日刊スポーツの取材に応じ、東京パラリンピックが残した、3年後のパリや、その先の未来へのレガシー(遺産)について語った。

「オリンピックに比べ、パラリンピックは開会式、閉会式の演出も良かったと思います。多様性と調和という、今の世界が目指すべきものが表現されていました。アスリートからいただいた感動も多かったし、閉会式でのダンスも手作り感があってよかった」。水谷さんは東京パラをこう振り返った。「多様性と調和」というテーマに対する答えが「とても明快だった」と、感じたという。

08年北京五輪開会式の演出で、世界の子どもたちの「笑顔の傘」を開いた。以降、ロンドン、リオデジャネイロ大会での活動を含め、パラのコンセプトでもある「多様性と調和」を意識したイベントを16年から毎年開催。5年間の集大成として東京大会を迎えた。

新型コロナウイルスの感染拡大で、都内の多くの区では、パブリックビューイングや文化プログラムイベントの開催を中止。しかし渋谷区は「文化オリンピアード」として、リアルとオンラインを組み合わせた文化プログラムイベントを開催。オンラインでの無観客ライブ中継配信のほか、渋谷区役所15階をギャラリーとして展開した。

年齢、性別、国籍、障がいの有無を問わず、多様な「個性」を持つ人たちが集まり「多様性と調和」を体現。イベントのMCは4人の車いす女子やジェンダーレス女子、次の開催国フランスの女性という、計6人の女性が担当した。スタッフも8割が女性だった。

「オリンピック的価値観からパラリンピック的価値観へ、時代や社会は急速に確実に、シフトしている。渋谷区の構想でもある『ちがいをちからに変える街』『ダイバーシティ&インクルージョン』『笑顔の共生社会の実現』にとことん向き合い、多様な個性あふれる文化プログラムは、大成功だったと思います」。

3年後のパリ大会をめぐっては、少し不安も感じているという。街中にある美術館などを会場に使うとされ、人も多く集まる。「テロの可能性も排除されず、東京よりも厳しい対応を迫られるのではないか」。一方で、フランスは多民族国家として知られ、多様性を尊重する大会となることに、期待を寄せる。

「東京大会が示した『兆し』を、パリはもっと強く、さらに進化させてほしい。東京が作り出したコンセプトを、より完成に近い形でつくりあげてほしいですね」。

渋谷区の文化プログラムのフィナーレでは、パリとライブ中継を結んで、現地からのメッセージを発信した。「パラリンピックが終わっても、これからが笑顔の共生社会の実現への始まり。子どもたちの笑顔は未来への希望です」。3年後のパリに向けて、新たな文化オリンピアードにつなげるために、これからも笑顔と平和のデザインを続けるつもりだ。

◆「MERRY SMILE SHIBUYA」の配信アドレスはhttps://www.merrysmileshibuya.online/