昨年7月3日、熱海市(静岡)の伊豆山地区で発生した土石流災害で、流れ落ちてきたがれきや土砂の直撃を受けた伊豆山港の漁師が港復旧のクラウドファンディングを21日から始めた。いまだに水道、電気は不通状態で、国の災害補助金や地元漁協からの寄付では足りない450万円を目標額とする。賛同して寄付をしてくれた返礼品には新鮮なイセエビやサザエを送付するという。

土石流災害は伊豆山に住む漁師「喜久丸」松本早人さん(46)は地元消防団として住民救出やがれき除去で被災現場に出動していた。「本当にあんなことが起こるなんて想像もつかなかった。自宅もあと2メートルのところまで土石流が接近してきた。今も雨風が強い夜は恐怖を感じる」と松本さんは現状について語った。

被害は山側や自宅周辺だけではなく、仕事場にもなる伊豆山港にまで及んだ。土石流は同港横の逢初川(あいぞめがわ)に沿って流れ、港全体をがれきと土砂でおおいつくしてしまった。土石流の被害にあった住居地区などの復旧が優先され、港のがれきや土砂の撤去、壊れたシャワー室やトイレ、休憩所の解体は熱海市の公費で昨年9月末にようやく終わった。

「停電と断水は変わらずです。伊豆山港の漁師はほとんど活動できていない」と松本さんは話す。伊豆山港には松本さんを含めて漁業従事者は6軒。松本さんの釣り船「喜久丸」は災害当時は熱海本港に船を回避させていたので、なんとか釣り客を受け入れることはできているが、伊豆山港自体は機能していない。

港が完全復旧する見積もりは2000万円と試算された。国の災害補助金1500万円、本港も含めた大熱海漁協からの寄付金200万円で、残りは約300万円。クラウドファンディングでは返礼品の伊豆山ステッカーの製作費やサザエ、イセエビの漁などの諸経費を含め450万円を目標額として設定した。

松本さんの娘の同級生がデザイナーで、伊豆山神社のシンボルの龍をイメージしたステッカーをつくってくれた。サザエとイセエビは5月15日から9月15日まで禁漁となるため、今年12月ごろに生きたままの新鮮な状態で返礼品とする。港内の海水はまだ濁りがとれていないが、サザエやイセエビの漁場は影響を受けていないという。

釣り好きで喜久丸の常連でもある俳優哀川翔(60)は同港でサザエとイセエビのバーベキューの経験もあって「隠れ家っぽくていい港なんだ。復活を望んでいます」とクラウドファンディングへの賛同を呼びかけた。23日午後1時で39人が主旨に賛同して56万1000円が集まった。「ありがたい。港を元の状態に戻してみなさんに楽しんでいただきたい」と松本さんは話した。【寺沢卓】