山口県の阿武町(あぶちょう)が、新型コロナ禍対策の臨時特別給付金10万円をめぐり、対象の463世帯分に相当する計4630万円を誤って町内の住民に振り込み、返還を求めて提訴した問題で、山口県警は18日、誤給付の金と知りながら移し替え不法に利益を得たとして、電子計算機使用詐欺の疑いで、この住民の無職、田口翔容疑者(24)を逮捕した。県警によると、容疑を認めているという。

逮捕容疑は、阿武町から自分の口座に入金された4630万円が誤って振り込まれたものと知りながら、4月12日にスマートフォンを操作してオンライン決済サービスを利用し、決済代行業者の口座に400万円を振り替えた疑い。

また、田口容疑者が「お金を使ってしまったことは大変申し訳なく思っています。少しずつでも返していきたい」と話していることも18日、判明。代理人弁護士が、最近連絡を取った際に男性がそう話していたと明かした。

田口容疑者は、町から誤って振り込まれた金を「海外の複数のインターネットカジノで全部使った」と説明しているが、口座の金の動きも分かった。

田口容疑者の指定口座は当初、残高が665円だったが、4月8日に正規の臨時特別給付金10万円のほかに、4630万円が誤って振り込まれた。その当日にデビット決済で67万8967円が出金され、以後、同19日付までに計34回にわたって計約4633万円を出金。その時点で残高は6万8743円まで減ったという。連日多額の出金を続けており、1回当たりの最高額は同12日の400万円、1日当たりで最も多いのは8回も繰り返した同11日で、計約900万円を超えた。

取引には主にインターネットバンク(IB)の仕組みを使ったもよう。田口容疑者も代理人に対し「スマートフォンの操作で送金した」と説明していた。主な振込先は3つの会社で、いずれも決済代行会社とみられる。代理人はまた、田口容疑者について、常習的にギャンブルをする人ではないと聞いているとしている。

田口容疑者は20年10月、阿武町の空き家バンク制度を利用して県内から移住し、1人暮らしだった。隣の萩市内の店舗で販売員として働いていたが、騒動で辞め、現在も無職という。

町は4月1日に給付金の対象の463世帯の振込先を記録したフロッピーディスクを金融機関に提出し、正規の手続きをした。しかし同6日に職員が名簿の一番上にあった田口容疑者の名前と4630万円の金額が記載された振込依頼書を、誤って金融機関に提出。金融機関は同8日、463世帯に10万円ずつ振り込み、田口容疑者には別に4630万円も振り込んだ。

町は、同8日午前、振り込み後に金融機関から確認があり、事態を把握。ただちに田口容疑者宅を訪れて謝罪し、返還を求めた。田口容疑者は返還手続きに同意し、職員とともに取引銀行に車で移動したが、入り口で「今日は手続きしない」と一転拒否。町は同14日に勤務先で母親とともに面会したが、田口容疑者は役場の非を指摘し弁護士と話すと主張。同21日、町側が自宅を訪問すると、田口容疑者は「もうお金は動かした」「元には戻せない」「どうにもできない」「罪は償います」などと話したという。

田口容疑者は4月と5月の2回、県警に出頭して任意聴取を受け、スマホを任意で提出していた。町は今月12日に全額返還を求めて提訴した。

◆電子計算機使用詐欺罪 刑法246条の2。人を欺いて財物をだまし取る罪は詐欺罪(刑法第246条)で法定刑は10年以下の懲役。電子計算機使用詐欺罪は、ATMや電子決済などで、電子計算機(コンピューターなど)に虚偽情報や不正な指令を与えて不法な利益を得る罪。法定刑は詐欺罪と同じく10年以下の懲役。銀行窓口で銀行職員をだまして現金を受け取れば詐欺罪だが、自分の金ではないことを知りながら、自分の金としてATMから引き出せば電子計算機使用詐欺罪となる。