蒸気が立ちのぼるサウナの中で、客に向けてタオルをあおぐ「アウフギーサー(熱波師)」の五塔熱子(本名・石黒明日香)さんが、横浜で開かれた全国大会で優勝し、9月に行われる世界大会への切符を手に入れた。大会ではタオルさばきなどの技術のほかショーとしての構成や独創性も競い合う。五塔さんは演技のテーマに神話の「八岐大蛇(やまたのおろち)」を選び「日本の文化を伝えたい」と意気込んでいる。

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サウナ室で行うドイツ発祥のパフォーマンス「アウフグース」。演者のことをアウフギーサーと呼び、熱したサウナストーンにアロマ水などをかけて客に熱風を送る。日本では「熱波師」などと、サウナ愛好家の間で親しまれている。

五塔さんは神奈川県川崎市出身で熱波師歴10年。サウナをプロデュースしている知人の紹介で21年5月に、鳥取県琴浦町に移住した。五塔さんは「もともと自然の中で、サウナをやりたかった。全国にアウフグースの認知度を高めたい」と話す。同町の地域おこし協力隊としても活動し、本格的なフィンランドサウナが楽しめる「一向平(いっこうがなる)キャンプ場」の「Nature Sauna(ネイチャーサウナ)」に所属している。

アウフグースは欧州で高い人気を集めている。2012年から世界大会が開かれ、年に1度欧州各国のトップアウフギーサーが集まり、しのぎを削っている。今年は日本が、アジアから初めて参加することになり、予選となる全国大会が7月に「スカイスパYOKOHAMA」(横浜市西区)で開かれた。五塔さんは「日本の文化を海外の人にも知ってもらいたい」と、山陰の神話の八岐大蛇をテーマにして挑んだ。個人戦では映像や音楽に合わせて、約30人が演技を披露した。欧州出身の審査員からも高い評価を受け、優勝を果たした。

長年の夢だった世界大会への挑戦。五塔さんは16年に大会の存在を知り、21年にはポーランドで開かれた世界大会の視察に向かった。「汗を拭う所作から全てがきれいで、日本とは演じる方のレベルが全く違う。お客さんに対する見せ方がショーみたいでした」。9月にオランダで行われる世界大会に向けては「優勝を目指すというよりは、あくまで初めて挑戦をさせてもらうという立場。今できることをしっかりやる」と語った。その上で「アウフグースは受けた方みんなが良い笑顔になる。世界の高い技術や知識を持って帰ってきて、日本で伝えていきたい」と力を込めた。【沢田直人】

◆八岐大蛇(やまたのおろち) 日本最古の歴史書とされる「古事記」に登場する怪物。頭と尾がそれぞれ8個ある大蛇で、8つの谷を渡るほど大きな身体はコケやヒノキ、スギが生えている。8人の娘を食べ恐れられていたが、須佐之男命(すさのおのみこと)が大蛇に酒を飲ませ酔った隙に退治した。鳥取県日南町と島根県奥出雲町の県境にある標高1142メートルの船通山が舞台となったと言われている。

■世界大会、9月にオランダで開催

アウフグースの世界大会「Aufguss WM」は9月13日~18日にオランダで行われる。個人戦、団体戦で争われ、それぞれ60点、70点満点で採点される。タオルの投げ技やサウナ室の温度の管理、アロマ水や氷を適切に使っているか、テーマに合った衣装、道具を選んでいるかなど、細かく基準が設けられている。横浜で開かれた全国大会「Aufguss Championship Japan(ACJ)」も同じルールで行われた。全国大会では参加者を“プロ限定”に絞り、熱波師として100時間以上の勤務経験がある人のみを参加可能とした。