藤井聡太竜王(王位・叡王・王将・棋聖=20)が史上最年少6冠となった。栃木県日光市「日光きぬ川ホテル三日月」で19日午前9時から行われた将棋の第48期棋王戦コナミグループ杯5番勝負第4局で、午後7時24分、132手で先手の渡辺明棋王(38)を下した。シリーズを3勝1敗として初の棋王を獲得し、20歳8カ月の史上最年少6冠を達成した。過去の6冠は1994年(平6)12月、羽生善治現九段(52)が24歳2カ月で獲得しただけ。藤井はこれを3年6カ月更新した。渡辺は名人の1冠に後退した。

藤井には初の棋王奪取と史上最年少6冠が見えていた。4局連続となった角換わり腰掛け銀から5筋を中心に攻め合って迎えた終盤、鮮やかな決め手を放った。「どうなっているか分からないまま指していました。後手7六銀(130手目)で攻めが続く形になったと思いました」。直後に渡辺が投了を告げていた。

AIの勝率を表示する評価値が緩やかに上昇するいつもの「藤井曲線」が描かれる。詰み筋を読み切ると、最後は勝利へ一直線だ。「藤井直線」となった。これでタイトル戦は13連勝。13期獲得は佐藤康光九段(53)と並び、歴代7位タイとなった。「何とか良い結果を出すことができました」と喜びをかみしめた。

過去5回の棋王戦は、前回の挑戦者決定(挑決)トーナメント3回戦が最高だった。17、18年度は予選を突破するも挑決初戦で敗退。19、20年度は予選で姿を消した。今期は挑決準決勝で佐藤天彦九段(35)に敗れた。単なる勝ち抜き形式の挑決なら終わるところだが、「ベスト4以上は2敗失格」という棋王戦独自のルールに救われた。

もう1敗もできない状況で敗者復活戦に回り、伊藤匠五段(20)、羽生と撃破。トーナメント優勝者は1勝、敗者組は2連勝が条件という挑戦者決定戦変則2番勝負で佐藤天に連勝し、初の挑戦権を獲得した。準決勝敗退組で挑戦者となり、一気に棋王を奪ったのは、20年前の第28期の丸山忠久現九段(52)以来だ。丸山は00年から2期名人を保持した。実績を引き合いに出せば、藤井も名人獲得の条件には見合う。

この日、NHK-Eテレで放送された「第72回NHK杯テレビ将棋トーナメント」決勝で佐々木勇気八段(28)に勝ち、初優勝した。本年度はタイトル6冠に加え、JT杯、銀河戦、朝日杯、NHK杯も制覇と将棋界史上初の公式棋戦4冠も果たした。

合計「10冠」の藤井が次に目指すのは、名人。「最も歴史と格式のあるタイトル」と、自身は考えている。渡辺に挑戦する7番勝負は来月から始まる。7冠と、谷川浩司現九段(60)が83年に21歳2カ月で達成した史上最年少名人の記録更新がかかる。

「4月から名人戦をはじめ、重要な対局が続くので、立場にふさわしい将棋を指せるよう、一層頑張らなければいけないと思います」。前哨戦ともいうべき棋王戦を制し、文字どおり頂点を狙う決意表明でもある。【赤塚辰浩】