名人獲得最年少記録を保持していた谷川浩司17世名人(61)が日刊スポーツの取材に応じ、藤井の40年ぶりの記録更新に「まだ20歳だが、将棋界を背負う存在になっている。記録は破られたが、光栄なこと」と心境を語った。

江戸時代から続く最も歴史がある「名人」は特別な称号だ。谷川は第41期名人戦(83年)を制し、21歳2カ月で最年少名人となった。当時の最年少記録は中原誠16世名人の24歳9カ月だった。

異次元の強さの秘密について「常に進化している。四段になった直後から、ただ時間を使うのではなく、集中力を持って、考え続けている」とみている。藤井は20年7月に棋聖戦に挑戦して以降、タイトル戦は負けなしの14戦全勝だ。タイトル戦ではトップ棋士が練り上げた藤井対策をぶつけてくるが、谷川は「相手の考えたこと、長所を吸収して、モノにしてしまう」と驚きを語った。

心理面の強さもある。「勝敗というよりも、その局面での最善を常に考えている。普通、人間対人間の対局だと、負けること、タイトル戦だと失冠することの恐怖心が芽生えるが、とにかく強くなりたい、将棋の真理を追究したいという気持ちがあるから、恐怖心はそれほど感じないのかもしれない」。

記録が破られたが、最強の道を歩む20歳へ、谷川氏は好きな言葉が思い浮かぶ。「守破離(しゅはり)」。千利休の言葉に由来するとされる茶道や武道・芸道における考え方だ。「守」は師や流派の教えや型を忠実に守り身に付けること、「破」は良いものを取り入れ、心技を発展させること、「離」は独自の新しいものを生み出し確立させること。「藤井さんはすでに『離』の境地に達しているかもしれない。名人として自分だけの境地を築き上げてほしい」。【松浦隆司】