日本将棋連盟の羽生善治会長(52)が就任から一夜明けた10日、早速初めての公務をこなした。新会長の初手として、東京・代々木にオープンした「駒テラス西参道」の開業記念式典に出席した。

式典でのあいさつ、テープカットなど初日からフル稼働だ。長谷部健渋谷区長(51)と内覧しながら、将棋教室や講座を開催するギャラリーで大盤を挟むと、「どうぞ、指してみてください」と促す。長谷部区長が先手1六歩と端から手をつけると、「いい手ですね。それでは私も」と後手1四歩と応じて、周囲を笑わせた。

その後に応じた共同会見では、「将棋の対局とは全く違います。最初の仕事が晴れがましい場所でうれしく思っています。会長と呼ばれるのには、まだ慣れておりません。佐藤さん(佐藤康光前会長)の方を見てしまいます」と、佐藤前会長の等身大パネルを見ながら苦笑いした。

羽生は9日の新会長就任あいさつの中で、「多様化したファンニーズに応えられるサービスを提供することが、これからの将棋連盟に求められる大きな課題」としていた。早速、その課題を少しでも実現できる施設の開業に立ち会った。

同連盟は渋谷区千駄ケ谷にある。渋谷区とは羽生が竜王戦に挑戦した2020年(令2)10月、将棋の普及、振興を通じた伝統文化の発展及び地域の魅力向上に寄与することを目的として、相互協力に関する協定を結んでいる。タイトル戦の竜王戦7番勝負第1局は、「セルリアンタワー能楽堂」で開幕している。暮れには明治神宮会館で準公式戦「SUNTORY 将棋オールスター東西対抗戦」も行っている。

対局を見せるだけではなく、普及という面での駒テラスもその一環だ。佐藤前会長と長谷部区長が進めており、偶然にも会長初仕事となった。

ここでは首都高の高架下のスペースを利用し、イベントや展示などを行う。ホール、ギャラリー、スタジオ、カフェの4つから構成され、将棋観戦を楽しむ「観る将(みるしょう)」と呼ばれるファン層に愛される「観る将の聖地」にしたい考えだ。

羽生自身、普及にも熱心で都内の小学校の出張授業で将棋の歴史や魅力を伝えたり、地方自治体や百貨店が企画した「将棋まつり」に日程を調整して参加している。6冠を保持していた95年には、阪神・淡路大震災のチャリティーイベントも中心になって行っている。

「新しいタイプのファンのニーズに応えられる企画を工夫して考えていく必要があると思います。地元の皆さまにも貢献できるようなことも考えていきたい」とも話した。

羽生は佐藤前会長の後任として、理事の経験がないまま連盟トップに就任した。史上初の全7冠制覇を達成した国民栄誉賞棋士が、藤井聡太7冠(竜王・名人・王位・叡王・棋王・王将・棋聖=20)の活躍で注目を浴びている将棋界のかじ取り役を担う。【赤塚辰浩】