将棋の最年少7冠、藤井聡太竜王(名人・王位・叡王・棋王・王将・棋聖=21)が永瀬拓矢王座(31)に挑戦する、第71期王座戦5番勝負第3局が27日、名古屋市の「名古屋マリオットアソシアホテル」で行われ、先手の藤井が大逆転勝ちで永瀬を破り、対戦成績を2勝1敗とし史上初の全8冠制覇にあと1勝と迫った。王座5連覇を目指す永瀬はかど番に追い込まれた。第4局は10月11日、京都市の「ウェスティン都ホテル京都」で行われる。
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口をふくらませ、首をガクッと折る。手にした扇子がポトリと落ちた。最終盤、劣勢に立たされた藤井が粘り強く相手にプレッシャーをかけ続けると、永瀬のミスを誘った。1分将棋に突入した永瀬は意外な飛車合いの一手を放つ。安全策だったのか…。藤井は逃さない。一気に持ち前の終盤力を発揮し、土壇場で勝利をたぐり寄せた。
大逆転勝ちに藤井は「終盤は、はっきり負けにしてしまったなと思っていました」と振り返った。負ければ全8冠制覇に後がなくなる第3局。戦型は第1局、2局に続く角換わりにはならず、雁木(がんぎ)。永瀬が力勝負と言える戦いを志向した。序盤、藤井が速攻を仕掛けると、永瀬が後手7二飛と袖飛車を採用し、対抗した。将棋に対するストイックな姿勢から「軍曹」という異名を持つ永瀬の深い研究がうかがえた。
「序盤から経験のない形で、こちらが攻めて行った手に対して的確に対応され、少しずつ苦しい将棋になってしまった」。中盤のねじりあいで、じりじりとリードを広げられ、敗戦目前まで追い込まれた。不利な局面にも焦らず、盤上に集中し、巻き返しのチャンスを狙っていた。
全8冠制覇まであと1勝に迫った。タイトルを獲得するよりも「結果は関係なく、強くなることが一番の目標」と常々、口にする。ただ8冠には少し違った思いがある。「挑戦する機会はすごく限られることだと思っています」。実力だけでは到達できない頂がある。運も含め、心技体のすべてがそろって初めて、届くことができるかもしれない。
「本局は結果は幸いしたが、序盤から押されて苦しい将棋だった」。両者のタイトル戦の初顔合わせとなった22年の棋聖戦5番勝負では、藤井は開幕局を落としたものの、その後3連勝して棋聖を防衛した。棋聖戦の再現となるか。「軍曹」の異名を持つ永瀬が立ちはだかるか。
「8冠」には「意識せずに集中して指せればと思います」。将棋界の400年の歴史でもずぬけた才能を持つ21歳が、史上最強の道を歩む。【松浦隆司】