NHKマイルCは本命不在の混戦ムードだ。

水島晴之「G1の鍵 その一瞬」は、ニュージーランドT4着のモリアーナ(牝、武藤)に注目した。牝馬特有の瞬発力に加え、札幌1800メートルのコスモス賞を勝ったようにパワーもある。広くて直線の長い東京マイルはうってつけ。その走りを検証する。

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モリアーナはクイーンC3着、ニュージーランドT4着と接戦を落とした。前者はハーパーから首+鼻差。後者はエエヤンから1馬身1/4+首+頭差。着差だけ見ると詰めの甘さを感じるが、仕掛けのタイミングが合わなかっただけ。その証拠にクイーンCは最速34秒0の脚を使っている。

22年8月13日、コスモス賞を制したモリアーナ
22年8月13日、コスモス賞を制したモリアーナ

後方から馬群を割って直線は外。4角11番手から残り200メートルで一気に先頭に並んだ。ここの2ハロン(600→200メートル)は11秒3、11秒6。レースラップの中で2番目、4番目に速い時にポジションを押し上げており、最後に競り負けたのは、その分。追いだしが少し早かった。

好位の内で脚をためた1着ハーパー、2着ドゥアイズとはコース取りの差もあった。外を回ってあの着差なら悲観することはない。仕掛けをひと呼吸待てば差し切っていただろう。むしろ負けて強しの内容だ。上位2頭が桜花賞で4、5着に善戦した比較からも、G1で十分勝負になる。

ニュージーランドTも2着ウンブライルが3角10番手から差し込んだのを見ると、やはり動くのが早かった。しかも14番枠という不利な条件。馬群の外々を回されながら0秒3差に踏みとどまった脚力は評価していい。新馬勝ちした時は上がり33秒0をマーク。動きだすタイミングさえぴったり合えば、もっといいパフォーマンスが見せられる。

また、東京マイルに必要な「底力」を計るという点で、札幌1800メートルのコスモス賞を勝っているのは大きい。洋芝の中距離を克服したパワーがあれば、タフな競馬になっても持ちこたえられる。決め手と底力が生きる最高の舞台で、馬名の由来でもある「風の女神」が輝きを放つ。

■底力が必要

【ここが鍵】

東京のマイルは2400メートルにも通ずる。過去、NHKマイルCからダービーの“変則2冠”を達成した馬は04年キングカメハメハ、08年ディープスカイがいる。また、02年タニノギムレットは3→1着だが、直線の不利がなければ連勝していたのではないかと言われた。

つまり「底力」が必要になる。向正面右手からスタートして、大きいコーナーを回り、直線525.9メートルの攻防へ。バックストレッチも長く、ワンターンのため息も入れにくい。おむすび型の中山と違い、マイルがぴったりの馬より、少し長めの距離が合う馬の方が力を出せるコースだ。

■エエヤンは2000メートルの新馬(3着)から、徐々に距離を詰めてマイルは3戦3勝。ニュージーランドTは好位追走から早めに抜け出して後続を完封。着差以上に強い競馬だった。前走で少し行きたがっていたように、前進気勢が強すぎるところはあるが、うまく折り合えば脚は使える。東京は3、5着だが初戦で後の青葉賞勝ちのスキルヴィングと2馬身差の勝負をしており、コース替わりに不安はない。

■ファルコンS(2着)のカルロヴェローチェは、スタートから掛かり通しだった。鞍上の武豊騎手が必死になだめても4コーナーまでハミをかんで、お世辞にもスムーズな競馬とは言えない。普通なら脚が上がるところだが直線は馬群を割って伸び、ゴールではタマモブラックタイに鼻差まで迫った。この行きたがる気性が鍵だが、新馬勝ちは1800メートル。折り合いさえつけばマイルに不安はない。

■アーリントンC2着のセッションは、初めてのマイル戦でも力を発揮した。オオバンブルマイにはゴール前で頭差かわされたが、重馬場でハイペースという先行馬に過酷な条件の中、3番手から粘り通したのは立派だった。阪神1800メートルの未勝利を勝ったように、スピードとスタミナを兼ね備えており、東京コースも向きそうだ。弥生賞では後の皐月賞2着タスティエーラの0秒5差と底力もある。