オークスはリバティアイランドの1強ムード。2冠へは800メートルの距離延長が鍵になる。果たして下克上はあるのか。水島晴之「G1の鍵 その一瞬」は、トライアル組より桜花賞組を上位に取り、同6着シンリョクカ(竹内)に注目する。ゴールに向かって伸びていく息の長い末脚は東京2400メートル向き。逆転の可能性を探った。

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桜花賞のシンリョクカは完敗だった。直線、後ろから来たリバティアイランドには、並ぶ間もなくかわされた。一瞬の切れでは太刀打ちできない。掲示板を外す6着。だが、オークスへ向けては収穫もあった。

注目したのは残り200メートルの走りだ。高低差1・8メートル(勾配1・5%)の急坂を上りながら5頭を追い抜き、4着ハーパーには0秒1差まで詰め寄った。上がり3ハロンはメンバー3位の33秒8。瞬間的な爆発力はないが、1ハロン平均にすると11秒2~3の速い脚を継続して繰り出したことになる。この末脚の持続力こそが、長距離戦で威力を発揮する理由だ。

暮れの阪神JFでは前半1000メートル57秒0のハイペースを中団で追走し、レースの上がりが36秒1というタフな競馬で2着を確保した。この時、リバティアイランドとは0秒4差。決め手比べとなった桜花賞(0秒6差)より時計差がなかったのを見ても、体力勝負の方が合っている。

阪神JFで2着に入ったシンリョクカ(2022年12月11日撮影)
阪神JFで2着に入ったシンリョクカ(2022年12月11日撮影)

父サトノダイヤモンドは16年の菊花賞馬で、産駒に今年の京都新聞杯(2200メートル)を勝ったサトノグランツがいる。また母父キングカメハメハは04年のダービーをレコードで勝った。スピードとスタミナを兼ね備えた血統で、距離延長は望むところだ。

陣営も2400メートルに魅力を感じている。当初、桜花賞は除外対象だったが、竹内師は「出られなければ皐月賞へ行きます」と、2000メートルのG1出走を示唆した。マイル向きならNHKマイルCを目標にしたローテに変更したはず。このあたりにもオークス勝負はみてとれる。

コンビを組む吉田豊騎手は97年メジロドーベル(桜2着)、02年スマイルトゥモロー(桜6着)で2勝しているが、どちらも桜花賞惜敗からの巻き返し。両馬と似た雰囲気のシンリョクカも、この舞台で輝ける可能性を秘めた1頭だ。

■800メートル距離延長「質」が異なる

【ここが鍵】

桜花賞とオークスの違いは、距離が800メートル延びる点にある。この時期の3歳は能力で克服してしまう馬もいるが、やはり適性は求められる。ヴィクトリアマイルで3着に敗れたスターズオンアースのルメール騎手が、距離適性についてこんな話をしていた。「上位2頭はマイルのスペシャリスト。瞬発力の差が出た」。

オークスや大阪杯(鼻差2着)であれほど強い競馬をした馬が、牝馬同士のマイルで取りこぼす。それだけレースの「質」が違うわけだ。今回はその逆パターン。桜花賞のリバティアイランドは上がり3ハロン32秒9。瞬発力は桁違いも、切れすぎる分、2400メートルで同じ脚が使えるか不安もある。桜花賞敗戦組の巻き返しも頭に入れておきたい。

◆ドゥーラ、脚たまれば

ドゥーラは年明けの2戦が15、14着と見せ場なく終わっているが、チューリップ賞は直線で他馬と接触して戦意喪失。桜花賞はその影響が残っていた。札幌2歳Sでドゥアイズを差し切り、出遅れた阪神JFは上がり最速で6着。力を出せば通用していい。ゆったり走れる2400メートルで脚がたまれば大駆けがある。

5日、坂路で追い切るドゥーラ
5日、坂路で追い切るドゥーラ

◆ハーパー、たたき合いへ

桜花賞4着のハーパーも切れ負けした印象。最後まで止まらずに伸びてはいるが、前を捉えるまでいかなかった。2000メートルの新馬戦(2着)を使ったように、中・長距離向き。折り合いに不安はなく、クイーンCで東京を経験できたのも大きい。先行力を生かしてたたき合いに持ち込めば上位争い。

5日、Cウッドを併せ馬で追い切るハーパー(撮影・白石智彦)
5日、Cウッドを併せ馬で追い切るハーパー(撮影・白石智彦)

◆エミュー、スタミナ型

エミューは410キロ台の小柄な牝馬だが、不良のフラワーCで大外一気の差し切りを決めたようにスタミナがある。桜花賞は少し距離が短かったが、上がり33秒9の脚を使った。10着という着順ほど内容は悪くない。血統的にも父ハービンジャー、母父スペシャルウィークと長距離向き。舞台替わりがプラスに働く。

フラワーCを制したエミューとM・デムーロ騎手(2023年3月撮影)
フラワーCを制したエミューとM・デムーロ騎手(2023年3月撮影)