今年のスプリンターズS(G1、芝1200メートル、10月1日=中山)は、例年以上に逃げ、先行馬がそろいハイペース必至の様相だ。水島晴之「G1の鍵 その一瞬」は、復調気配がうかがえるピクシーナイト(牡5、音無)に注目する。骨折による長期休養から復帰して4戦目。前走のセントウルSも8着ながらゴール前の脚に見どころがあった。果たして21年覇者の復活はあるのか。検証した。
ピクシーナイトは長期休養明けを3戦して、徐々に本来の姿を取り戻しつつある。復帰初戦の高松宮記念(13着)こそ不良馬場で伸びを欠いたが、その後の京王杯SC(8着)、セントウルS(8着)はいずれも0秒5差以内。着順ほど内容は悪くなく、確実に復活への階段を上がっている。
特にセントウルSは次につながる競馬だった。スタートでつまずき、予定していた好位差しの形にはならなかったが、しまいはメンバー3位の上がり32秒9をマーク。仕掛けてすぐに反応しなかったあたり、本調子ではなかったのかもしれないが、ゴール前の脚は一番目立っていた。
530キロを超える大型馬で跳びも大きく、切れる馬に比べると瞬時のギアチェンジが難しいタイプ。その半面、1度スピードに乗ると長い間持続する。21年のスプリンターズSを3番手から抜け出した時と、セントウルSの後半3ハロンのレースラップを比較すると、面白いことが分かる。
上がりタイムは前者が33秒8(11秒1、11秒3、11秒4)、後者が33秒7(10秒9、11秒1、11秒7)とほぼ同じだが、ラップの振り幅が全然違う。前走の方が大きい。つまり一定に速い脚は使うが極端に速いともたつく。それが前走敗因でもある。
今回、行きたい馬がそろい「前傾ラップ」になると仮定すれば、上がりのかかる競馬でピクシーナイトの息の長い末脚、スピードの持続力が生きる。あとは前半の位置取り次第。中団あたりで流れに乗れば、完全復活の走りが見られるかもしれない。
【ここが鍵】前より後ろ
ハナを主張するのはテイエムスパーダだろう。前走セントウルSで復活の勝利を挙げ、改めて「逃げ」に活路を見いだした。今回も徹底先行は間違いない。これに逃げて重賞連勝中のジャスパークローネ、モズメイメイあたりが絡めば流れは必然的に速くなる。良馬場なら前半3ハロンは32秒台後半から33秒台前半か。展開は差し馬有利に働く。
また、4回中山最終週に番組が組まれるようになってから差し馬の台頭が目立つ。16、17年連覇レッドファルクス、18年ファインニードル、19年タワーオブロンドン、20年グランアレグリアが勝利。昨年2、3着のウインマーベル、ナランフレグも差し、追い込みだった。馬場状況的にも「前より後ろ」の傾向が強い。
■アグリ控えて収穫
アグリはセントウルSで控える競馬を試した。それまでの先行策ではなく、後方3、4番手で脚をためて直線勝負。最後は馬群を割って最速の上がり32秒4で2着に食い込んだ。道中の追走もスムーズで、狭いスペースも気にしない。この内容ならG1でも同じような競馬ができるし、今回はもう少しついて行っても折り合いの心配はなさそう。大一番前に差す形で結果を出せたのは収穫だ。
■ナムラクレア、ローテが吉
ナムラクレアは余裕のローテーションがいい。昨年は函館スプリントS、北九州記念と2戦したが、今年はキーンランドCだけ。例年にない酷暑を考慮して夏場は無理使いしなかった。これが吉と出るはず。短距離の差しがすっかり板に付き、高速決着でも道悪でも力を出せる安定感が魅力。速い流れにも戸惑わずしっかり脚をためることができるタイプで、乱ペースになればより強みが生きる。
■ママコチャ短距離向き
ママコチャは徐々に距離を詰めながら、スプリンターとしての高い能力を見せはじめている。1400メートルの安土城Sを勝ち、初の1200メートルとなった北九州記念でもジャスパークローネの2着。阪神牝馬Sで掛かって惨敗した馬とは思えない。折り合いもついて最後までしっかり脚を使った。もともと気性の激しい血筋で、この路線変更は間違いなくプラス。流れが速くなるのも歓迎だ。
※次回更新は10月11日の予定