海外のレースの映像がストレスなく見られるようになったのはいつ頃だったのでしょうか。今年は英国のギニーレースとケンタッキーダービーが違う週になって、だいぶ楽をさせてもらいましたが、例年は英2000ギニーとケンタッキーダービーが同日(5月の第1土曜日)に開催されていて、次々と飛び込んでくるレース結果にてんてこ舞いしながら暗黒(?)のゴールデンウイークを過ごすことが通例です。

日本で馬券が発売されるようになってからケンタッキーダービーのライブ映像も観られるようになってきましたが、インターネットの環境が整う前はラジオだけが頼りでした。そう、米軍向けの英語放送「FEN」です。ご存じですかね(笑い)

早朝に起きて雑音の混じるラジオに耳をくっつけて、途切れ途切れの実況中継を聞く。なにより出走馬を知るためにアメリカの新聞をFAXで送ってもらったり…。

その後、テレビでBSやCS局が開局すると、スポーツ専門チャンネルの「ESPN」などがケンタッキーダービーを放映してくれた時期もありましたが、それもコンスタントには続かず。チャーチルダウンズ競馬場に行っている知人の携帯に電話をかけてライブ気分を味わいながら結果を知る年もありました。

そして、気がつけばノートパソコンを立ち上げれば、ケンタッキーダービーの映像が飛び込んでくるようになって今に至るという訳です。

ケンタッキーダービーの予想については極ウマ「奥の手」、土曜の日刊スポーツ本紙をご覧いただくとして、今回は晴れの舞台にルメール騎手とともに挑むクラウンプライドについて私見を述べたいと思います。

筆者はクラウンプライドを3着までに食い込むのは難しいのではと見てノーマークにしています。

UAEダービーを鮮やかに差しきったクラウンプライドですから、その実力は世界レベルに到達していることは間違いありません。それでは、なぜ評価を下げているのか?

その最大の理由はゲートを出てから最初のコーナーまでのダッシュ力にあります。競走馬はその国の競馬に合うようにゲートを出るようにしつけられています。

脚をためて最後に爆発させる欧州ではゲートをゆっくり出てから馬の後ろで我慢することを教えられています。これに対して脱落したら負けのサバイバルをベースとする米国では、たとえ差し追い込み脚質の馬でもゲートを飛び出したら、一気に加速するように教えられています。日本の競走馬は欧米の中間と言えるかも知れません。

クラウンプライドもゲートは決して下手ではありませんが、ほとんどが米国馬による競馬、それも20頭立てのケンタッキーダービーに日本馬が参加すると“ダッシュ力”の差で置かれ気味になってしまいます。これは過去にケンタッキーダービーに参戦したラニやマスターフェンサーの走りからも明らかです。昨年、1番人気で3着(4着から繰り上がり)したエッセンシャルクオリティの敗因はゲートで他馬とぶつかってレースのリズムに乗り切れなかったことが敗因と指摘されました。

ゲートからすぐにギアをトップにあげて全速力でポジションを取りに行く米国流の調教を積めば、結果は違ってくるでしょうが、日本での競馬をベースにする日本馬にそれを求めることは出来ません。クラウンプライドにはケンタッキーダービーを終えてからも競走生活が続くからです。

彼我の差は「教えられていることの違い」によるもので、誤解を恐れずに申せば、それは能力の違いではありません。競馬はそれを克服してのものですが、同じダートの2000メートル戦でもケンタッキーダービーと、昔のジャパンカップダートのように日本の馬たちに米国馬が混じる日本の競馬は違って当たり前です。

今年のケンタッキーダービーは上位馬の能力が接近する大混戦。馬券はもちろんですが、クラウンプライドのレースぶりにも注目して「最高の2分間」を楽しみたいと思います。

(ターフライター奥野庸介)

※競走成績等は2022年5月6日現在

20枚立てヒダカヒモノダービー
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