米国3冠戦線はG1ケンタッキーダービーと、G1プリークネスステークスを終えて、後は6月10日土曜のG1ベルモントステークス(ベルモントパーク、ダート2400メートル)を残すのみとなりました。

5週間で完結する3冠レースの過酷さは、よく語られていますが、ケンタッキーダービーから中1週でプリークネスS、さらに中2週でベルモントSというスケジュールが確立したのは、今から約70年前のこと。それ以前の歴史をさかのぼると、ケンタッキーダービーの翌週にプリークネスS、そして中3週でベルモントSという時期がありました。

20世紀前半の3冠馬の例で見ると、1919年に最初の3冠馬となったサーバートンから46年のアソールトまでの7頭は、ケンタッキーダービーとプリークネスSを連闘しなければなりませんでした(ギャラントフォックスの1930年はプリークネスSが3冠の初戦、翌週にケンタッキーダービーの順で行われた)。

いずれにせよ、ライバルを上回る能力はもちろん、心身ともにタフでなければ3冠はならず、これは現在のスケジュールとなった1948年以降に誕生した6頭の3冠馬(48年サイテーション、73年セクレタリアト、77年シアトルスルー、78年アファームド、2015年アメリカンファラオ、18年ジャスティファイ)にも共通しています。

さて、本命馬のフォルテを含む5頭もの欠場馬が出て、ドタバタしたケンタッキーダービーを、キャリア3戦で差し切ったメイジが挑んだプリークネスSはボブ・バファート厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎手によるナショナルトレジャー(牡3、父クオリティロード)が、直線で迫るブレイジングセブンズを頭差抑えて優勝。メイジは3番手から差を詰めたものの3着に終わり、3冠馬誕生は持ち越しになりました。

バファート調教師にとってプリークネスSは、これが8勝目(2018年ジャスティファイ、15年アメリカンファラオ、10年ルッキンアットラッキー、02年ウォーエンブレム、01年ポイントギヴン、1998年リアルクワイエト、97年シルヴァーチャーム)。ジョン・ヴェラスケル騎手は同レース初優勝で、これで3冠完全制覇(ケンタッキーダービーは20年オーセンティックなど3勝、ベルモントスSは12年ユニオンラグスなど2勝)となりました。

ナショナルトレジャーは17年のエクリプス賞最優秀3歳牝馬のエイベルタスマンや、昨年のサウジカップを制したエンブレムロードなどを送るクオリティロードの産駒。牝系は7代母のシンイギュアル(父ボールドヴェンチャ)が1946年の米3冠馬アソールトの全妹で、大種牡馬のマンノウォーも同じファミリーの出身です。

21年のファシグティプトン・サラトガ・8月セールに上場されて50万ドル(約6750万円)で現在の馬主グループによって落札され、ボブ・バファート厩舎に入厩。昨年はG1ブリーダーズカップジュベナイルでフォルテの3着、今年は1月のG3シャムステークスが1番人気で3着。ティム・ヤクティーン厩舎に転厩して臨んだG1サンタアニタダービーは、先でハナを争ったプラクティカルムーブとマンダリンヒーローから2馬身3/4差の4着に敗れ、再びバファート厩舎に戻り、ここを目指して調整が進められていました。次走は2冠がかかるベルモントSへ。ケンタッキーダービー馬のメイジは回避しますが、ケンタッキーダービーを蹄(ひづめ)のけがで取り消したフォルテの復帰が、大きな見どころになりそうです。(ターフライター奥野庸介)

※競走成績などは5月25日現在

京都の神社で出会った神馬です
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