タイキシャトル(牡5、藤沢和)が圧倒的1番人気に力強くこたえた。道中は好位に控え、直線では先頭に立った香港からの遠征馬オリエンタルエクスプレスをあっという間に抜き去り、1分37秒5のタイムで楽勝だった。これで10戦9勝(2着1回)。重賞6連勝はJRA史上タイ。昨年のマイルチャンピオンS、スプリンターズSと合わせて、短距離G1・3冠はJRA史上初の快挙で、8月の仏遠征が楽しみとなった。

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白い帽子を泥だらけにしながら単勝1・3倍、タイキシャトルが突っ込んでくる。直線ラスト200メートル、先頭に立ったオリエンタルエクスプレスに外から襲いかかる。

大金星を前に必死の抵抗を試みるホワイト騎手をあざ笑うかのようにかわしていく岡部タイキシャトル。残り100メートルで2馬身半差をつけて、悠々のゴールインだ。前走はレコード決着のスピード競馬、今回は田植えができそうな馬場での消耗戦。まるで次元の違う競馬を、こんなに簡単に克服してしまう馬が過去にいただろうか?

「馬場がドボドボで、しかも内枠だから外に逃げることもできない。その点は気になった。でも4角ではいい手ごたえで、馬も(嫌気を出してレースを)やめずにいてくれた。視界から馬が見えなくなって、勝ったと思ったよ」と岡部幸雄騎手(49)は淡々と振り返る。

これで日本の競馬はしばらくはお休みだ。次なるステージはフランス、そしてアメリカとなる。8月16日のジャック・ル・マロワ賞(G1、直線芝1600メートル、仏ドーヴィル)が当面の目標だ。その時期、馬場が悪くなりやすいドーヴィル競馬場だが、そういった馬場にも対応できることが証明されたのは何よりの収穫だ。

万事控えめな岡部騎手が言った。「海外に連れていったら面白いな、という馬の中でも3本の指に入るんじゃないか。W杯のように、盛り上がってくれればいいんだけどね」。

日本競馬史上最強のマイラーの誕生で、海外G1優勝は、もう、果てしない夢ではなく、手を伸ばせばつかめる目標となった。断然の主役が、キッチリと答えを出した雨の壮行会。府中の不良馬場は、フランスへと続く滑走路だ。【松田隆】

◆タイキシャトル ▽父 デヴィルズバッグ▽母 ウエルシュマフィン(カーリアン)▽牡5▽馬主 (有)大樹ファーム▽調教師 藤沢和雄(美浦)▽生産者 タイキファーム(米国)▽戦績 10戦9勝▽主な勝ちクラ 97年ユニコーンS(G3)スワンS(G2)マイルCS(G1)スプリンターズS(G1)98年京王杯SC(G2)▽総収得賞金 4億9395万7000円

(1998年6月15日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時