日本中に知らしめた牝馬の底力-。学習院大在学中に「日本中世史」を学んだルーキー下村琴葉(ことは)記者が、歴代スターホースの逸話を探る連載「名馬秘話ヒストリア」の第6話はウオッカ。ダービーを含む11戦で手綱を取った四位洋文調教師(49)が当時を振り返る。

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歴史に残る3馬身差だった。07年ダービー、ウオッカが牡馬をねじ伏せ、64年ぶりとなる牝馬ダービー制覇を達成。G1・7勝という“女”の強さは、人々を深く酔わせた。

計11戦で鞍上を務めた四位師は07年桜花賞が印象深いと話す。「前哨戦のチューリップ賞をすごくいい形で勝って、自分の中では桜花賞は負けないなという手応えだった。でもあっさりダイワ(スカーレット)に負けた。競馬に絶対はないことを改めて思い知らされたね」。桜花賞に敗れてもダービーを勝つ牝馬、競馬の面白さを体現している。

一般的に牝馬は牡馬に比べてデリケートな一面があると言われているが、ウオッカは競馬では女の子らしいところはなく、どちらかというと男っぽい面を見せていたという。「でも、馬房でリラックスしてる時は気の強さを見せていた。厩舎に行った時、顔をなでようとすると怒ったりしてた。あのへんは牝馬ぽかったな」と笑う。

64年ぶりの牝馬ダービー制覇の偉業を達成したウオッカであったが、1番人気で挑んだ宝塚記念は8着に沈んだ。「宝塚記念の時は女の子らしさがあってナーバスになっていた。やっぱり3歳の女の子がゴリゴリの一流の男馬のところに入るのは怖いよね」。

ライバルのダイワスカーレットも同じ牝馬で同世代。牡馬をも蹴散らす2頭に共通するのは“男に負けないずぶとい性格”だと師は話す。

ウオッカ以来、ダービーを制した牝馬は誕生していない。英国・ニューマーケットに眠る彼女は、自身に続く偉業の知らせをさぞかし心待ちにしていることだろう。

◆ウオッカ 2004年4月4日、北海道静内町(現新ひだか町)・カントリー牧場生産。父タニノギムレット、母タニノシスター(母の父ルション)。馬主は谷水雄三氏。栗東・角居勝彦厩舎所属。通算成績26戦10勝(うち海外4戦0勝)。G1は06年阪神JF、07年ダービー、08、09年安田記念、08年天皇賞・秋、09年ヴィクトリアM、ジャパンCの7勝。海外を含めた総獲得賞金は13億3356万5800円(歴代9位)。

◆下村琴葉(しもむら・ことは)2000年(平12)、東京都生まれ。学習院大卒。学生時代は日本中世史ゼミに所属し「吾妻鏡」を講読。趣味は野球観戦。“ウマ娘”がきっかけで競馬に興味を持った。今年4月日刊スポーツ入社、5月にレース部に配属。初予想のダービーを◎ドウデュースで大的中。馬のメンコを見るのが好き。