峠を自転車で上りきった時の達成間は何物にも代え難いものがある。だから何とか足付きしないよう歯を食いしばって上るのだが、本当の楽しみはダウンヒルにあると改めて気がつかされた大観山へのライドだった。
海抜5メートルの神奈川・湯河原から標高1011メートルの大観山へ20キロのヒルクライム。平均こう配は5.3%で、きつい傾斜もない。湯河原の温泉街を過ぎ、奥湯河原入口バス停を県道75号線をそのまま右へカーブしていくと椿ラインとなり、大観山へと続いていく。ここから山道が始まり、木立の中を淡々と上っていく。ピークの大観山展望台までは13.7キロ。もう少し短いと楽なのだがなどと思いながらペダルを回す。
この日は平日とあってモーターバイクや車も少なく、鳥のさえずりを聞きながらのんびりと上る。湯河原でポツリときた雨もいつのまにかやんでいるようだ。中盤では傾斜が緩くなるところもあり、足を休められるのだが、14キロ地点に現れる「大観山まで6キロ」の標識にはいつも心が折れそうになる。あと6キロはちょっと長いぞ。おまけにこの先から残り5キロは平均こう配が6%にぐいっと上がるのだ。
半端な19.4キロの距離表示の先のカーブを右に曲がるとピーク。ふ〜とひと息つき、展望台へ向かう。ここでやっと絶景に出会える。富士山には少し雲がかかっていたが、ここからの芦ノ湖と富士山の眺めは飽きない。
振り返ったところの広場にブランコがあったのには驚いた。20年5月に設置されたばかりで、「2人乗りで大切な人と一緒に大観山で素敵な想い出を」という願いから作られたそうだ。今年1月に行ったケープ真鶴でもブランコを見かけた。こちらは「幸せをつくる真鶴時間」というコンセプトのようだが、神奈川ではブランコが密かなブームなのだろうか。
スカイラウンジで岩海苔がのった「坦々大観山らーめん」で腹を満たし、箱根へは向かわずUターンして椿ラインをダウンヒル開始。この日は箱根レーダー局バス停の前後で舗装工事が行われており、片側通行部分はガタガタになっていたが、それを過ぎると快適な道。こう配が緩く、舗装も良くて急カーブも多くないこの道はダウンヒルには最適だ。対向車と後方からのモーターバイクに注意していれば、ある程度のスピードで気分よくダウンヒルできる。
温泉街に出た後はオレンジラインへ入ってみた。最初は少し上るが、その後は3キロほど信号もなくほぼ直線の下りが続く。上りは温泉街の方が風情があっていいが、下るだけならこちらがおすすめ。ダウンヒルの快感を楽しめた上、最後のトンネルを抜けると海と真鶴半島が目に飛び込んでくる。思わず「おー!」と歓声が飛び出す絶景。20キロ上った甲斐のある20キロのダウンヒルを堪能できる。ただ「自転車の危険な乗り方に注意」と再三にわたって注意喚起の看板が掲げられており、スピードの出し過ぎは禁物。
個人的な見解でいうと、これまでで最高のダウンヒルは静岡の富士サファリパークから西へ向かって下って行く国道469号線だ。適度なこう配の下りがまっすぐに伸びる広い道。富士山1周の際に2度ほど逆から上ったことがあったが「下ったら最高だろうな」と思っていた。ここを12年前の600キロのブルベで下った。早朝だったこともあり、車はまったくおらず思った通りの20キロ以上の痛快な下りだった。
さて、明日も下るために上ろうか。【メディア戦略本部デジタル編集部 石井政己】