北海道味噌「Cha-Chu Ramen」(17ユーロ)
北海道味噌「Cha-Chu Ramen」(17ユーロ)

年代によって寿司派ラーメン派

 新年恒例の福岡RKB毎日放送「立川生志の世の中こげん面白かばい・正月スペシャル」にて電話出演。ミラノでラーメンブームが起こっているというお話をさせていただいた。時間の関係で言えなかったことをコッソリ書いてしまう。

 5年前からミラノ郊外の語学学校で日本語クラスを持たせてもらっている。生徒はすべてイタリア人で、社会人半分、学生半分という感じ。で、40代、50代はこぞって「ミラノで美味しい寿司屋を教えてください」という。一方、20代、30代の生徒から聞かれるのが「どこでラーメンが食べられますか?」という質問。

日本のアニメや漫画には必ずラーメンシーン

 アレッサンドロ・デル・ピエロが「キャプテン翼」を見てサッカーを始めようと思ったという都市伝説があるように、今の40代以下のイタリア人は日本のアニメで育った。イタリアのテレビが多局化してきた1980~90年代。番組数が必要だったため安価な日本のアニメがたくさん買われたという。

 彼らが言うには、我々日本人は意外に気が付かないけれど、日本のアニメやコミックには必ずといっていいほどラーメンを食べるシーンがあるのだそうだ。

 「あの主人公が食べているのはなんだ?」。そんな素朴な関心から日本を象徴する食べ物は寿司からラーメンへとシフトしてきた。

ミラノは熊本とんこつラーメンから始まる

 ミラノのラーメン文化は90年代末に熊本からラーメンの職人さんが来て広めた本格的なとんこつラーメンにルーツをたどる。美術館で有名なオシャレなブレラ地区にある「大阪」というレストラン。

 その後、徐々にこのゾーンは「ラーメン・ストリート」化してきた。昨年末には千葉に本拠地を持つ「みそや」がオープン。この店の特徴は具材がトッピングで選べること。そして、イタリア人に人気ナンバーワンといえる具材が、なんと「ナルト」なのだそうだ。

ミラノで人気のラーメン屋「みそや」の店内。アメリカにも店舗を持ち、欧州ではミラノが初出店。Via Solferino,41 地下鉄2号線「ポルタ・ガリバルディ」駅から5分ほど。電話 02-83521945
。営業時間 12:00-15:00、19:00-23:00 月曜定休
ミラノで人気のラーメン屋「みそや」の店内。アメリカにも店舗を持ち、欧州ではミラノが初出店。Via Solferino,41 地下鉄2号線「ポルタ・ガリバルディ」駅から5分ほど。電話 02-83521945 。営業時間 12:00-15:00、19:00-23:00 月曜定休

 「あの、グルグルと渦巻いているヤツ。あれ、入ってないんですか?」と尋ねられるのだとか。

 それにしても、イタリア人はラーメンを美味しいと感じるいるのだろうか? ウチの生徒たちに聞いてみると、これまた意外な答えが返ってきた。

あれは何だ!? ナルトだ

 「イタリアには温かい食べ物はあっても、熱い食べ物はない。それがとてもユニークだ」

 「イタリアのパスタはシーフードは魚介、ボロニェーゼ(ミートソース)は肉だけ。それに比べるとラーメンは野菜が入っていたり、とてもリッコ(豊か)なピアットウニコ(一皿料理)ですよ」

 さらに我々には考えられない食べ方をするイタリア人がいるという。

 「イタリア人はベジタリアンが多いこともあるのか、ウチは野菜ラーメンがおススメなのですが、『野菜ラーメン、パスタなしでお願いできますか?』っていう注文があるんです」(「みそや」さんにて)

???麺抜きラーメンくださ~い

 パスタとは麺のこと。つまり、ラーメン、麺抜きで!?

 ありえん。すき焼き、肉抜きで、みたいなものか?

 ありえんだろ。

 「スープをイタリア語ではブロードと呼ぶのですが、醤油味のブロードを気に入って、どうやら野菜スープとして楽しんでいるようです」

 食べ物は美味しく食べられればそれが一番とは言うけれど…。ちなみに、イタリアを代表する飲み物であるカップチーノ。あれは牛乳たっぷりなので、イタリアでは朝ご飯の飲み物。イタリア人は夜に牛乳を摂取することをひどく嫌う。ところが、日本の旅行者は夕食後に注文するのでイタリアのレストランではやや困惑するっていう話は聞いたことがある。

麺をズルズル…憧れるイタリア人も

 ちなみに、イタリア人が憧れる日本人のラーメンの食べ方は、麺をズルズルと音を立てて「すする」こと。そば、うどんを含め、イタリア人はそういう食べ方ができないのだ。

 かつて日本では、どんなガイドブックにも「スパゲッティは音をたててすすってはいけない」と書いてあった。まさに隔世の思いだ。時代はめぐり、今やイタリア人が麺をズルズルと音をたててすすることに憧れる。

 ラーメンを介した文化交流。侮りがたし。(イタリア・ミラノ在住・新津隆夫。写真も)