警察官によって封鎖されたロデオドライブ
警察官によって封鎖されたロデオドライブ

5月25日にミネソタ州ミネアポリスで起きた白人警察官による黒人男性殺害事件を発端にした暴動が全米に広がり、ここロサンゼルス(LA)でも2日連続で暴徒と化した人々が商店を襲い、放火や略奪を繰り返す事態に発展しています。5月30日にウエストハリウッドやビバリーヒルズなど複数箇所で発生した暴動から一夜明けた31日にはサンタモニカやロングビーチに飛び火。ロサンゼルス郡では2日連続となる夜間の外出禁止令が発令され、州兵が派遣される事態となっています。

「息ができない」と書かれた落書き
「息ができない」と書かれた落書き

ことの発端は偽札を使用した疑いで通報されて駆けつけた警察官が、真昼間の歩道でジョージ・フロイドさんを地面に押し倒して首を膝で10分近く押さえつけたことで、息ができなくなりその後運ばれた病院で死亡が確認された事件でした。この時の様子が偶然居合わせた人によって一部始終撮影されており、フロイドさんは苦しそうに何度も「息ができない」と訴えていたにも関わらず、警察官は押さえつけた膝を緩めることはなく、意識がなくなるまでの様子が映し出されていました。この動画がSNSで拡散されたことから全米各地で抗議デモが起き、一部のデモ隊が暴徒と化して略奪や破壊、放火などを行う事態に発展していったのです。

放火された店舗の前では大勢の人が携帯電話片手に実況中継
放火された店舗の前では大勢の人が携帯電話片手に実況中継

LAでは28年前の1992年に黒人男性ロドニー・キングさんに暴行を加えて負傷させた白人警察官に無罪判決が下されたことを機に暴動が起き、暴徒化した人々が事件とは無関係の多くの商店を襲撃するなどし、1週間近くにわたって略奪が続いた歴史に残る大規模な暴動事件が起きています。この時は暴行の現場を偶然撮影した映像が全米のテレビネットワークで放送されたことから暴動に発展しましたが、今回はSNSで拡散された映像がきっかけで、いずれも映像メディアが持つ影響力が背景にあります。

もっとも被害が大きかったメルローズ通りにある店は火がつけられて全焼
もっとも被害が大きかったメルローズ通りにある店は火がつけられて全焼

しかし、92年の暴動はコリアタウンやサウスセントラルといった比較的治安の悪い地域で起きていたことに比べ、今回暴動が起きたのは高級ブランド店も立ち並ぶウエストハリウッドやビバリーヒルズといった暴動とは無縁に思われていた地域でした。観光客にも人気の屋外ショッピングモール「ザ・グローブ」やおしゃれなブティックや飲食店が立ち並ぶメルローズ・アベニューを中心としたフェアファックス地区といったハイエンドな場所が主な舞台となったのです。しかも、新型コロナウイルス感染拡大の影響で3月中旬から営業を停止していた小売業が先週ようやく店内での買い物が認められたばかりというタイミングで、2カ月以上たってようやく営業を再開した矢先に店が壊され、商品が略奪されるという悲劇に見舞われたのです。

ビバリーヒルズのロデオドライブにあるグッチは窓ガラスが割られる被害に
ビバリーヒルズのロデオドライブにあるグッチは窓ガラスが割られる被害に
警察官なんてくそくらえの文字と割られたガラス
警察官なんてくそくらえの文字と割られたガラス

「富の象徴」でもあるビバリーヒルズのロデオ・ドライブでは、グッチの窓ガラスが割られ、多くの高級ブランド店の壁やショーウインドーには「Fuck Cops!(警察なんてくそくらえ)」や「BLM(Black Lives Matterの通称=黒人の生命も重要という意味の人種差別への抗議運動)」と書かれた落書きが。また、洗練されたショップが立ち並ぶフェアファックス地区でもアディダスのショップが襲撃されて破壊され、その近くのショップでも火の手が上がって全焼の被害が出ています。

略奪が起きたノードストローム
略奪が起きたノードストローム

また、ザ・グローブ内にある百貨店ノードストロームではガラス戸を壊して押し入った人たちが店内から次々とブランド品を盗み出す様子がテレビ中継され、すぐ近くのアップルストアも破壊されて商品が盗まれたと伝えられています。深夜にまで及んだテレビ中継では、「戦場のようだ」とキャスターが繰り返し伝えていましたが、一夜明けた現場を歩いてみるとまだ焼け焦げた臭いが漂っており、地面は割れたガラス破片に覆われ、燃やされた車も路上に放置されたままの惨状です。

今年1月に事故死したコービー・ブライアントの壁画の横には「黒人経営」の文字が
今年1月に事故死したコービー・ブライアントの壁画の横には「黒人経営」の文字が

ジョージ・フロイドさんに正義をと書かれた抗議メッセージやフロイドさんの最後の言葉となった「I can’t breath(息ができない)」と書かれた落書きもありますが、中には「Black Owned(黒人が経営)」と書かれた看板を掲げて被害を免れている店舗もあります。他にもセレブも訪れるスーパーマーケット「ホールフーズ」でも窓ガラスが割られるなどの被害が出ており、今まで見てきた光景が一夜にしてまったく別物となっていました。

ステイホームと書かれたイラストを掲げる古着店も略奪被害に
ステイホームと書かれたイラストを掲げる古着店も略奪被害に

30日の夜から店内での飲食が認められ、ソーシャルディスタンス確保など店の改修を行ってようやく再開したレストランもわずか一夜で無残に破壊される悲劇を目の当たりにし、言葉にならない気持ちがこみあげてきます。フロイドさんの死となんの関係もなく、ましてコロナの影響で売り上げが激減して苦境に立たされている人たちにとって、この現実はあまりにつらすぎます。

窓ガラスが割られ、強奪被害にあった時計店
窓ガラスが割られ、強奪被害にあった時計店

31日も正午頃からLA各地でフロイドさんの名前や「息ができない」と書かれたプラカードを手にした人々が、これまでも幾度となく繰り返されてきた白人警察官による黒人殺害に対する正義を訴えて街を行進する平和的な抗議デモが行われていた中、サンタモニカで再び暴動が勃発。観光地としても知られるショッピング街プロムナードやショッピングモール「サンタモニカプレイス」で略奪が起こり、テレビカメラの前で公然と店を破壊して商品を盗み出す様子が生中継され、警察官が催涙ガスやゴム弾を使ってデモ隊を威嚇する事態が続いています。

オスカー像のストリートアートにも抗議の落書きが
オスカー像のストリートアートにも抗議の落書きが

暴動はもはやフロイドさん殺害事件とはまったく関係のない、有色人種に対する差別や貧富の差、社会の分断などアメリカが長年抱えている問題や新型コロナの影で起きている格差や経済的困窮、そして閉塞感やうっぷんなどが表面化したものになっています。31日も午後6時から翌朝6時まで外出禁止令が出されたLAの街はひっきりなしにサイレンとヘリコプターの音が鳴り響いていますが、まん延した怒りの矛先は暴力行為として今後数日間は続くと推測されます。

映画「プリティ・ウーマン」の舞台になったビバリーウィルシャー・ホテルも襲撃に備え窓ガラスを板で覆っています
映画「プリティ・ウーマン」の舞台になったビバリーウィルシャー・ホテルも襲撃に備え窓ガラスを板で覆っています

一方で、「No More Violence(これ以上の暴力は辞めて)」と書かれたプラカードを手に体を張って暴動を止めようとする人もいて、「フロイドさんの死に正義を」と訴える人たちの声はどこに向かっていくのでしょう。

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)