11月3日の大統領選まで3週間を切り、全米の多くの州で始まった期日前投票を行うため、各地の投票所では有権者たちによる長い行列ができています。コロナ禍でソーシャルディスタンスが求められていることもありますが、一部地域では早朝から行列ができ、投票できるまで8時間待ちという日本では信じられない異例の事態も起きています。パタゴニアやウォルマート、アップルなど大手企業は従業員に投票のための休暇を与える方針を示し、ここロサンゼルス(LA)では街を歩けばあちらこちらに「投票」を呼びかける看板やメッセージが掲げられており、SNSではハリウッドセレブたちが若者に投票を呼びかけるなど、関心は日々高まっています。

大型ショッピングモールに入るアパレル店の入り口にも「VOTE(投票)」を呼びかける文字が
大型ショッピングモールに入るアパレル店の入り口にも「VOTE(投票)」を呼びかける文字が

勝てないと思われていたトランプ大統領が当選してから4年。社会は分断され、特に今年に入ってからは「コロナ禍」と「人種差別」という大きな問題に直面したこともあり、今回の選挙は多くの国民が「史上最も重要な選挙戦」と捉えています。そのため、確実に自分の一票を反映させるべく多くの人が期日前投票を行うと予想されており、特にコロナ禍において今年は郵便投票の利用者が急増しているようです。今後の新型コロナ感染症の対策や対中国問題、気候変動や戦争などアメリカの大統領が世界に及ぼす影響力は大きいだけに、残り2週間強の選挙戦の行方に世界中から注目が集まっています。

そんな今後4年間の未来を変える重要なアメリカの大統領選の仕組みはどうなっているのか簡単に紹介します。

バス停のベンチに掲げられた「VOTE」の看板。暴動やホームレス問題などを解決するため投票しようと訴えています
バス停のベンチに掲げられた「VOTE」の看板。暴動やホームレス問題などを解決するため投票しようと訴えています

●二大政党

19世紀後半以降、共和党と民主党が二大政党として君臨してきたため、大統領は常にそのいずれかの党から選ばれてきました。共和党は一般的に保守的で、対する民主党はリベラルな政党として知られています。大統領選は4年ごとに行われており、それに先立って各党が正式な候補者を決める予備選挙がまず行われます。そして夏の全国党大会において大統領と副大統領の公認候補が正式に指名されます。全米50州のうち大まかに内陸部は共和党支持者が多い「レッドステート」で、東西の海岸部は民主党が強い「ブルーステート」と言われ、赤と青で色分けされています。

住宅の塀にも「変革のための投票を」と呼びかけるメッセージが
住宅の塀にも「変革のための投票を」と呼びかけるメッセージが

●選挙権

選挙権を持つのは18歳以上のアメリカ国籍の者に限ります。つまり、永住権保持者には選挙権はありませんが、市民権を獲得している外国人は投票することができます。また、日本のような住民基本台帳がないため、自動的に投票入場整理券(ハガキ)が送られてくることはなく、投票するには自ら選挙人登録を事前に済ませなければなりません。選挙人登録方法は州によって異なりますが、ここカリフォルニア州ではオンラインから有権者登録ができる他、郡選挙事務所や郵便局、公立図書館などで申請書を入手することができます。ちなみに、カリフォルニア州では重罪の有罪判決による州または連邦刑務所での禁固刑受刑者または仮釈放者は、投票することができません。

LAのファーマーズマーケットには気候変動を止めるために投票をと訴えるメッセージボードが
LAのファーマーズマーケットには気候変動を止めるために投票をと訴えるメッセージボードが

●投票方法

今年の投票日は11月3日ですが、多くの州で不在者投票として期日前投票を実施しており、コロナ禍の今年は投票場の混雑を防止するため期日前投票を活用することが推奨されています。カリフォルニア州では登録済の有権者は永続的、または1度の選挙で郵便投票を選択することもできます。また、対面による期日前投票も行われており、ロサンゼルス郡では今月24日からホテルや学校、教会や公園等に開設された投票場にて投票ができます。有権者は数ある投票所の中から自分の都合の良い場所を自由に選択することができるため、日本よりも投票しやすい環境にあるように感じます。

人種差別運動ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)と共に投票を訴える看板も目立ちます
人種差別運動ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)と共に投票を訴える看板も目立ちます

●総得票数で決まるわけではない

有権者は各人が大統領にふさわしいと思う人物に投票するわけですが、実際には全米の総得票数で決まるわけではありません。投票結果は州ごとにまとめられ、それぞれの州で勝者が決まり、人口などに応じて割り当てられた「選挙人」の数を競うことになります。ネブラスカとメーン州をのぞいて州の勝者はその州の選挙人を獲得できる「勝者総取りの方式」を採用しています。つまりここカリフォルニアは55人の選挙人がいるので勝者は55票を獲得することになります。そうして各州の選挙人を獲得していき、538人の選挙人の過半数にあたる270人以上を獲得した候補者が大統領に選ばれます。

20ページを超える投票所の一覧が掲載されたLA郡の冊子。有権者はここに掲載された投票場から好きな場所を選んで投票に行くことができます
20ページを超える投票所の一覧が掲載されたLA郡の冊子。有権者はここに掲載された投票場から好きな場所を選んで投票に行くことができます

●現職が有利?!

第二次世界大戦後に敗れた現職大統領は10人中3人のみで、アメリカの大統領選は現職が断然有利だと言われています。敗れた近代の現役大統領の一人目は、ニクソン大統領の辞任を受けて大統領に昇格した唯一大統領選に勝利せずに大統領となった人物として知られるフォード大統領(1976年、共和党)で、他の2人はカーター大統領(民主党、1980年)とジョージ・H・W大統領(共和党、1992年)です。大統領の任期は最大2期、8年と決まっているため、仮にトランプ大統領が再選した場合はこれが最後の任期となります。

●就任式

開票は選挙当日に行われますが、選出された大統領は来年1月20日に行われる大統領就任式を経て正式に大統領に就任が決まります。

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)