ゴルフ界のスーパースター、タイガー・ウッズが現地時間23日にロサンゼルス(LA)南西部の高級住宅地ランチョ・パロス・バーデスで起こした自動車事故は世界中に大きな衝撃を与えました。

当日、ウッズが撮影のために向かっていたゴルフ場
当日、ウッズが撮影のために向かっていたゴルフ場

ウッズはテレビ番組の撮影のために事故現場近くのゴルフ場に単身で向かう途中、運転していた車がコントロールを失って中央分離帯を越え、木や看板に衝突しながら数回転し、道路から6メートル以上離れた脇の草むらに突っ込んで車が大破するという大事故を起こしました。車内に閉じ込められたウッズは両足を骨折する重傷でしたが、駆けつけた消防隊員によって工具を使って窓から救出され、現場近くの、外傷患者に総合的な緊急医療を提供するトラウマセンターと呼ばれる外傷センターで、10時間近くに及ぶ大手術を受けたといわれています。

事故現場となったホーソン・ブルバード
事故現場となったホーソン・ブルバード

メディアで事故の一報が伝えられたのは、事故から数時間後。ウッズの容態など詳細がわからない中、テレビ画面には前方部分が完全に破壊された、フロントガラスが割れて草むらに横たわるSUVが映し出され、多くの人が最悪の事態を想像したことと思います。SNSには著名人を含む世界中の人々から無事を祈るメッセージが寄せられ、トランプ前大統領もFOXニュースのインタビューで「我々はタイガーが必要だ」とエールを送っていました。その後の報道で、ウッズは選手生命が危ぶまれるほどの重傷を負ったものの、命に別状がないことが伝えられ、強運の持ち主であると多くの人が胸をなでおろしたことでしょう。

タイガー・ウッズの事故があったパロスバーデス半島
タイガー・ウッズの事故があったパロスバーデス半島

単身の事故でアルコールや違法薬物を使用して運転していた形跡はなく、事故原因はいぜんとして調査中ですが、現場にブレーキ痕がなかったことや、下り坂のカーブだったことなどからスピードを出しすぎてコントロールを失った可能性が指摘されています。

事故が起きたのはホーソン・ブルバードという幹線道路で、ちょうどランチョ・パロス・バーデス市とローリング・ヒルズ・エステーツ市の境界付近に当たります。坂とカーブが多いエリアではありますが、なぜ事故は起きたのでしょう。筆者はこの道をこれまで何度も運転したことがありますが、事故後に改めて運転してみました。

ウッズの車は手前の車線からこの木がある中央分離帯を越えて赤いポールの奥の草むらに転落しました
ウッズの車は手前の車線からこの木がある中央分離帯を越えて赤いポールの奥の草むらに転落しました

現場はLAの空港から南に30分ほど、LAの中心部からは1時間弱の場所に位置する太平洋に面した半島です。日本人が多く暮らすLA南部のトーランス市からは15分ほどの場所で、見晴らしの良い豪邸が立ち並び、日本からの駐在員も多く住んでいます。この一帯は丘陵地帯で、ウッズは海へと続くホーソン通りを海岸方面から北上しており、事故が起きたのはちょうど緩やかなカーブの下り坂でした。現場は特段見通しが悪いわけではなく、コントロールを失うほどのカーブでもありませんが、制限速度は45マイル(約72.4キロ)で意外にスピードを出す車が多いと感じられます。

特に交通量の少ない時間帯での下りは自然とスピードが出やすく、地元メディアの報道では時速100キロを超えるスピードで走る車も少なくないといわれており、緩やかなカーブといえど制限速度を超えるスピードで走行しているとコントロールを失う可能性はあると感じました。事故が起きた朝7時過ぎは、まださほど交通量が多くないことから、ウッズの車も報道にあるようにある程度のスピードが出ていたことは十分に考えられます。

事故当時、ウッズが走っていた車線からの景色。中央分離帯の木の手前でコントロールを失って反対車線の草むらまで横転しました
事故当時、ウッズが走っていた車線からの景色。中央分離帯の木の手前でコントロールを失って反対車線の草むらまで横転しました

実はこの辺りは複雑な地形で、LA在住者でも土地勘がないと運転しにくい場所だといわれています。ウッズは現場からもさほど遠くはないLA南部サイプレス市の出身で、過去に周辺のゴルフ場でプレーしたこともあるといわれていますが、この一帯の道には不慣れだった可能性は十分にあります。地元の人の間では事故の多発地帯としても知られており、今年に入ってからだけでもすでに13件の事故が起きており、4人が負傷してうち2人は重傷だったとLAタイムズ紙は伝えています。

坂やカーブがあることを知らせる警告の看板などはなく、海が近いことから周辺は霧が発生しやすく、運転が得意ではない人は怖いと感じられることでしょう。事故当日は晴天で霧は出ていなかったようですが、筆者も過去に視界不良でカーブが怖いと感じたことはあります。片側2車線とはいえ、スピードが出ている車が後ろからくるとドキッとしますし、LAの一般道の制限速度は基本35(約56キロ)~45マイルなので、坂でカーブということを考えると法定速度を下げるべきだという意見にも納得がいきます。

ここから分離帯を越えて赤いポールの先まで数回横転したと思われます
ここから分離帯を越えて赤いポールの先まで数回横転したと思われます

この辺りは日本では観光地としてはあまり知られていませんが、地元では景色の良い海岸沿いをハイキングしたり、洞窟もある海を散策したり、美しい夕日を見るスポットとしても人気があります。ホーソン通りを海に突き当たった先にあるビンセンテ岬には灯台があり、冬から春にかけてはホエールウォッチングのポイントとして知られていますし、公園ではBBQなどもできます。また、そこから海岸沿いを東に向かうと高級リゾートホテルやトランプ前大統領が所有するゴルフ場もあり、斜面にあるガラスの教会として知られるウェイフェアズ・チャペルは海が一望できる絶景で日本人にも人気の結婚式場です。

一部メディアの報道ではウッズは海岸沿いに建つテラニア・リゾートに宿泊していていたといわれており、そこから内陸にあるゴルフ場に向かっていたと思われます。事故現場から撮影場所だったゴルフ場までは10分程度の距離ですが、その朝ウッズはとても慌てていたという目撃情報もあり、待ち合わせ時間に遅れそうで急いで現場に向かっていたことも考えられます。

何より命が助かり、単身事故で他人を巻き込まなかったこと、子供たちが同乗していなかったこと、シートベルトとエアバッグに守られて頭部などに致命傷になる損傷がなかったこと、事故後すぐに近隣住民が通報して迅速に救助されたことなどを考えると、奇跡的だったと思わずにはいられません。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)