コロナ禍からの脱却を目指して6月15日に経済活動の完全再開を宣言し、マスク着用の義務化やソーシャルディスタンスなどの感染予防策を撤廃したカリフォルニア。それから1カ月が経ったロサンゼルス(LA)では、変異種デルタ株の蔓延で感染者が急増して再び屋内でのマスク着用が義務化される事態となっています。経済活動が再開された6月15日時点の1日の新規感染者数はわずか226人でしたが、それから1カ月後の7月15日には8倍以上増えて2月下旬以降最多となる1902人を記録。さらに入院患者数も216人から倍増して452人となり、医療体制の逼迫を心配する声も出始めています。

感染予防対策でマスクを着用してソーシャルディスタンスを保って並ぶ人たち。再びこんな光景を目にする日がくるかもしれません
感染予防対策でマスクを着用してソーシャルディスタンスを保って並ぶ人たち。再びこんな光景を目にする日がくるかもしれません

この数字が意味するのは、コロナ対策はワクチン接種だけでは完璧ではないかもしれないということです。LAのワクチン接種率は、集団免疫を獲得するのに必要とされる7~8割には到達していないものの20日現在少なくとも1回接種した人は60%で接種を完了した人は53%と人口の半数は超えています。しかし、12歳以下の子供への接種は認められていないことから若い世代での感染拡大が顕著な上、重症化している人の多くがワクチンを接種していない人だと言われています。一方で、感染力がより強いデルタ株の登場により、ワクチン接種を完了した人がコロナに感染する「ブレークスルー感染」への懸念も高まっています。これまでブレークスルー感染しても無症状か軽症で済むとされてきましたが、重い症状を訴える人も出始めており、ワクチンの効果が変異株では低下する可能性も指摘される中でマスクやソーシャルディスタンスなど感染予防策の継続の是非も問われ始めています。

コロナ禍以降よく目にするようになったマスク着用を呼びかける看板
コロナ禍以降よく目にするようになったマスク着用を呼びかける看板

実際、感染対策を緩和して経済活動を再開させた多くの国が、LAと同じような状況に直面しています。6月中旬までに国民の半数以上がワクチン接種を完了し、世界の中でもワクチンの接種スピードが速いことで知られるイスラエルでも、パンデミック以前の生活に戻った後にデルタ株の拡大で屋内でのマスク着用の義務化が再導入されました。また、コロナの封じ込めに成功したとされるオーストラリアでも感染が拡大しており、シドニーは6月に再びロックダウンに突入しています。LAでは経済活動が再開して以降もワクチン未接種者には引き続きマスクの着用が求められていましたが、日に日にマスクを着用している人は少なくなり、接種の有無を証明する必要もないことから実際には多くの未接種者がマスクをせずに外出しています。それに加え、7月4日の独立記念日を祝うため、各地で数万人規模のイベントが行われ、大勢の人がマスクなしで集まったことも感染の再拡大につながった要因の一つだと言われています。野外コンサート劇場で行われたコンサートに出かけた筆者の知り合いは、「満席の会場は誰一人としてマスクをしておらず、大声で叫んだり、歌ったりしていてみんなコロナのことを忘れていて恐怖を覚えた」と話していましたが、ステイホームの反動からまだコロナ禍であることを多くの人が忘れてしまったことも再拡大につながる要因になっていると推察できます。ABCテレビは、現在の感染状況は仮に経済活動を再開させる以前のロックダウンに戻った場合、カリフォルニア州が定めていた4段階の指標に照らすともっとも危険な状況とされる「広く蔓延」に相当するレベルだと伝えています。このまま状況が悪化すれば、秋以降に感染爆発した昨年末の悪夢が再び現実となり、ロックダウンに逆戻りするのではないかと心配する声も出始めています。

観光地では人が戻り、コロナ禍前の日常が当たり前になっています
観光地では人が戻り、コロナ禍前の日常が当たり前になっています

LA郡の保健当局はこの状況を受け、今月17日から屋内でマスク着用を義務付けることを発表。これにより、LA郡内ではスーパーマーケットなどの買い物時や映画館、ジム、理美容院などを利用する際にはワクチンの接種の有無に関係なくマスクを着用しなければサービスを受けることができなくなりました。しかし、カリフォルニア州としては義務化されていないため近隣地域では着用の義務化はなく、一部住民からは科学的根拠に乏しいと批判の声も出ています。公衆衛生局はワクチンを接種できない子供や免疫が低下している人を守るためにマスクが必要だと説明しており、ワクチンの効果は否定していませんが、ワクチン接種者の間では「なぜ接種を拒む人たちのために自分たちが犠牲になる必要があるんだ」といった批判的な声も上がっています。

ワクチンを打った人はマスクなし、打っていない人はマスク着用と指示するレストランのサイン。この対策はあまり意味をなさなかったことが立証されました
ワクチンを打った人はマスクなし、打っていない人はマスク着用と指示するレストランのサイン。この対策はあまり意味をなさなかったことが立証されました

米疾病対策センター(CDC)は「ワクチン接種者を完了した人は例え感染したとしても症状が出ることは稀で、他人への感染リスクも低い」としてマスク着用の必要はないことや感染者と濃厚接触した場合に求めていた14日間の隔離についても不要とする見解を示していますが、現状を見る限りワクチンを接種しても十分な抗体ができにくい一部の人が無症状のままウイルスを蔓延させている可能性も否定できなくなっています。ワクチンの接種を完了した人は仕事などで陰性証明書の提示が必要な場合やよほどの事情がない限り検査を受けることはないため、微熱やのどの痛みなどがあっても感染を疑わず気づかぬまま感染源になっている可能性も否定はできません。また、現状では誰がワクチンを打ったか打っていないか分からないため、マスク着用を義務化することがもっとも安全な方法だと言わざるを得ないのかもしれません。

現時点ではワクチンを接種すれば感染しても重症化を避けることができると言われており、今後はワクチン未接種者の間で感染が拡大するパンデミックが起こると予想されていますが、東京オリンピック(五輪)を機に新たな変異種が生まれる可能性もあり、ワクチンだけでコロナに打ち勝つのは難しくなってくるかもしれません。

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)