新型コロナウイルスの感染拡大によるパンデミック以降、ガソリン価格の上昇やサプライチェーン問題などで急速にインフレが進み、物価の高騰が止まらないアメリカ。買い出しの度に様々な食品や日用品の値上がりを肌で感じる日々ですが、中でも肉類の値上がり率は尋常ではありません。ここロサンゼルス(LA)の精肉店のオーナーですら地元メディアの取材に現在の価格は「法外」とコメントするほど、かつて誰もみたことのない価格高騰になっています。報道によると2020年11月からの1年間で、肉や魚、卵の価格が13%上昇したと伝えられており、豚肉に関しては昨年11月だけで2%以上値上がりしたと言われています。筆者が普段よく利用する日系のスーパーマーケットでも1年ほど前は1パック4ドル台だった豚肉が、最近は6ドルを超えています。一部の肉は40%近く値上がりしているとも言われていますが、現在の価格を見るとあながちうそではないだろうと思えてきます。なぜ今、これほどまでに肉の価格が高騰しているのでしょう。

1ポンド(約450グラム)5ドル前後で販売されているスーパーの豚肉
1ポンド(約450グラム)5ドル前後で販売されているスーパーの豚肉

精肉工場や運送業者の人員不足やそれに伴う賃金の値上げなども要因の1つとされていますが、カリフォルニア州で家畜の豚を狭い柵の中に閉じ込めて飼育することを禁じる州法が1日に施行されたこともあげられています。家畜を狭い場所に閉じ込めて飼育することは残酷だとして、豚と産卵用鶏の飼育スペースを拡大することが2018年に実施された住民投票で決まり、それが今年1月1日から施行されたわけですが、その影響が早くも値上がりという形で出始めているようです。

動物愛護の先進地として知られるカリフォルニア州では近年、動物愛護団体の運動などでペットのみならず食肉用家畜の飼育環境の改善も進んでいます。しかし、問題はこの州法がカリフォルニア州内で飼育される豚にのみ適用されるものではなく、他州で生産された基準を満たさない豚肉製品の販売も禁じていることにあります。基準を満たす豚肉はわずか15%しかないため、豚肉の供給量の激減によって価格が高騰し、近い将来ベーコンが食卓から消える可能性まで指摘されています。豚舎の設備投資や生産コストの上昇は当然ながら販売価格に反映されるため、カリフォルニア州食品農業局はこの州法によって住民1人あたり年間推定50ドルの出費増になるとの算出を発表しています。

アメリカでは塊肉が一般的で、日系マーケットで販売されているスライス肉は1ポンド10ドル超えです
アメリカでは塊肉が一般的で、日系マーケットで販売されているスライス肉は1ポンド10ドル超えです

大きな市場であるカリフォルニア州でベーコンや豚肉を販売できなくなった生産者は異議を唱えており、全米豚肉生産者協議会などがカリフォルニア州に対して規定に満たない豚肉の販売を禁止するのは違憲であると訴えを起こし、全米を巻き込む騒動に発展しています。一方で、100%ケージフリー(放し飼い)で育てられた鶏卵のみ販売を認めるという州法に関しては、他の一部州でも同様の法律が制定されていることやマクドナルドなど大企業の間でもケージフリーの卵のみ使用する動きが出てきているため、さほど大きな問題にはなっていません。

ベーコンも1パック10ドル前後に値上がりしています
ベーコンも1パック10ドル前後に値上がりしています

動物福祉という考えが脚光を浴びる中、食用家畜の取り扱いを巡って今後さらに論議が進んでいくことでしょうが、目下のところ豚肉製品の値上がりと朝食の定番であるベーコン&エッグが食べられなくなるかもしれないということに人々の注目が集まっています。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)