日本の玄関口である成田国際空港の敷地内にありながら、一見すると廃駅ではないかと疑ってしまう駅が京成電鉄と芝山鉄道の共同使用駅である「東成田」だ。かつては「成田空港駅」として多くの旅客を運んだが、その後に新しい成田空港駅ができたことにより、今は人影も少ない駅となっているが、それだけに楽しめる要素の多い駅でもある。



電車から降りた私を迎えてくれたのは使用されていないホームと旧駅名標だった(写真〈1〉〈2〉)。元来の駅構造は2面4線だが、うち1面は使用されておらず閉鎖されている。スカイライナー専用ホームだったようだ。


(1)今も残る成田空港時代の駅名標
(1)今も残る成田空港時代の駅名標
(2)東成田駅の駅名標。奥の使われていないホームには成田空港の駅名標が残る
(2)東成田駅の駅名標。奥の使われていないホームには成田空港の駅名標が残る

空港の開港とともに1978年、初代の成田空港駅(つまり東成田駅)が開設された。だがその後、成田新幹線の計画が消滅したことで91年、新幹線の予定地に現在の成田空港駅と空港第2ビル駅が開設された。2つの新駅はターミナル直結。それに対し初代駅はターミナルまでバスや徒歩の必要があったことで、空港駅としてはお役御免となり、東成田に改名。近年は駅近辺に勤務する人を運んだり、前回記した芝山千代田駅とのつなぎの役割を果たしてきたが(※)、構内施設に関しては、冒頭のホームを含め、ほぼそのまま残されている。

そもそもホーム設置のイスが渋い(写真〈3〉)。なかなか年代ものだと思う。エスカレーターは無事(?)動いているが昇りのみ(写真〈4〉〈5〉)。おそらく今は重くて大きな荷物を持つ人の利用はないだろうから妥当だろう。前回お伝えした通り、土曜日の午後、駅に降りたのは私を含め3人で、おそらく全員が「同好の士」(鉄道ファン)であることは確実だ。だって皆が軽装で飛行機に乗る感じがないもの(写真〈6〉)。


(3)東成田駅ホームのいす。かなり年季が入っている
(3)東成田駅ホームのいす。かなり年季が入っている
(4)改札へのエスカレーターは昇りのみ稼動している
(4)改札へのエスカレーターは昇りのみ稼動している
(5)壁も年月を感じさせる
(5)壁も年月を感じさせる
(6)東成田駅のホームは閑散としていた
(6)東成田駅のホームは閑散としていた

芝山鉄道往復の手続きを行い、有人改札を抜けると、そこは「ウォー」と声が出そうな、ある意味ロストワールド。いろいろなものが約30年の時空を経て「保存」されている(写真〈7〉〈8〉)。ただ私は当時の成田空港駅を何度か利用しているが、まるで記憶にない。


(7)柱を取り囲むように設置されたいすがそのまま残る
(7)柱を取り囲むように設置されたいすがそのまま残る
(8)コンコースに今も残るレリーフ
(8)コンコースに今も残るレリーフ

初めて来たのは東京で学生生活を送っていた80年代前半。中森明菜さんの「北ウイング」が流行っていたので空港見学に来たことと、かなり厳しかった検問で学生証を提示したことは覚えているが駅の思い出は抜けている。その後も仕事で、プライベートで何回か京成でここに来たはずだが、記憶にあるのは検問のことばかり。おそらく改札から誘導されるようにゾロゾロとターミナル行きのバスに乗車したのではないか。緊張感の漂う駅だった。

まずはうっすら残る広告を見上げながら地上に出る(写真〈9〉〈10〉)。かつてのターミナル駅の雰囲気は残っていた。そしてここからが今回の最大のテーマであるターミナルへの移動。地図で分かるように東成田駅は第1、第2ターミナルの中間にあり、徒歩到達が可能でバスもある。東成田駅としては初めて来たのでどちらのコースも魅力的ではあるが、ここは有名なトンネルでしょう。というか目の前にポッカリと空間がある(写真〈11〉)。


(9)うっすらと残る広告を見ながら地上を目指す
(9)うっすらと残る広告を見ながら地上を目指す
(10)地上に出るとターミナル駅の雰囲気が残っている
(10)地上に出るとターミナル駅の雰囲気が残っている
(11)空港第2ビルへの連絡口入り口
(11)空港第2ビルへの連絡口入り口

距離は500メートルで途中には残りの距離も表示される親切さ(写真〈12〉〈13〉)。ただし本当にここが成田空港かと思えるほどの静寂に包まれている。人の声も飛行機の音も聞こえない。500メートルという距離を知らなければ入るのにちゅうちょしてしまうかもしれない。この時は向かいからも誰も来ず、テクテクとひたすら静寂に寄り添うこと数分。大きな音が聞こえたと思ったら突如ゴール(第2ターミナル)にたどり着き、人混みにまぎれることに。なかなかの体験だった(写真〈14〉〈15〉)。


(12)ひたすら続くように見える通路内部
(12)ひたすら続くように見える通路内部
(13)残りの距離を教えてくれる
(13)残りの距離を教えてくれる
(14)ざわざわと音が聞こえると突如ゴールとなる
(14)ざわざわと音が聞こえると突如ゴールとなる
(15)ターミナル側からの入り口。東成田にはなかった「カート禁止」の案内がある
(15)ターミナル側からの入り口。東成田にはなかった「カート禁止」の案内がある

モータリゼーションが進む、はるか前ににぎわった駅が今はひっそりしているという例は日本中にいくらでもあるが、平成に入ってもにぎやかだった駅に静寂が訪れる例はあまりない。東京からなら到達は楽だし、今は国内線LCCも成田を拠点としていることが多い。芝山千代田駅と合わせ、ぜひ体感してもらいたい「成田空港への旅」である。【高木茂久】


※東成田駅は京成成田駅と芝山千代田駅の中間にある。正式には京成成田~東成田が京成東成田線、東成田~芝山千代田が芝山鉄道線だが、運行はほぼ一体となっている。