支線シリーズの第3弾は鉄道ファンなら知らない人はいない小野田線支線(山口県)。「本山(支)線」「長門本山(支)線」などの通称を持つ。たった2駅しかない2キロちょっとの路線を私が初めて訪れたのが2016年2月で、初めて乗車したのが19年2月。訪問時期と乗車時期が異なるという鉄道では、ちょっとあり得ない「クイズ」のような路線だからこそ有名になった支線である。わずか2キロの話ではあるが、2回に分けてお届けします。

 
 
〈1〉宇部新川から乗車したクモハ123
〈1〉宇部新川から乗車したクモハ123

昨年の今ごろの夕方、私は宇部線の宇部新川駅から電車に乗り込んだ。山陽本線の新山口と宇部を結ぶ宇部線の中心駅が宇部新川。ちなみに宇部市の中心駅は宇部新川であって宇部ではない。乗車したのはお隣の居能駅で小野田線に分岐する小野田行き。帰宅時間の18時ごろで電車は混んでいた。とはいってもクモハ123の1両編成だが(写真〈1〉)。

3駅先の雀田(写真〈2〉〈3〉)で待機中の長門本山行きに乗り換える。私を入れて6人がシートに座った。すぐに発車である。前も書いたことがあるが、いよいよだと思うと私は心臓がドキドキする。電車でドキドキというのは本数が極めて少ないからだ。雀田を出る電車は6時59分、7時25分、18時12分のたったこれだけ(写真〈4〉)。1日わずか3本である。前文で「訪問と乗車が違う路線」と書いたのは、このためだ。出発までの短い時間に3年前の初訪問を思い出していた。

〈2〉本山支線が分岐する雀田駅。右が長門本山方面、左が小野田方面
〈2〉本山支線が分岐する雀田駅。右が長門本山方面、左が小野田方面
〈3〉雀田では電車到着のホームが表示されている
〈3〉雀田では電車到着のホームが表示されている
〈4〉雀田駅の時刻表。本山支線の電車は1日3本しかない
〈4〉雀田駅の時刻表。本山支線の電車は1日3本しかない

3年前も訪問は2月だった。ただしお昼すぎだったので、もちろん電車はないが、それを承知でやって来た。この時は新山口から宇部線に乗り、山口宇部空港の最寄り駅(?)の草江そして宇部新川で途中下車。最終的には下関で宿泊して翌朝は山陰本線経由で仙崎(こちらも支線である…笑い)へという詰め詰めの日程だったため、早朝と夜の乗車は無理だったが、数カ月前、地図を見て少し気が変わった。

時刻表によると支線の距離は2・5キロ。換算キロ(※)だから実際はもう少し短いはず。地図によるとレールにほぼ寄り添うように道がある。「これは1度歩くしかないな」という結論に至った。30分ほどで歩けるはず。電車で5分の行程をわざわざ30分歩くのはムダなように感じるかもしれないが、意外とそうでもない。

唯一の途中駅である浜河内も見られるし、実際の電車はすぐ長門本山で折り返してしまうのに対し、これだと滞在時間も気にしなくて済む。徒歩30分(往復で1時間かかるが)は「駅舎鉄」としては前向きに検討すべきプランだ。この時点で決行も2月と決めた。理由は冬場にマラソンが行われるのと同じです。さすがにおじさん、汗を流しながら1時間も歩く元気はありません。

〈5〉線路に沿って住宅街の道路を歩いた
〈5〉線路に沿って住宅街の道路を歩いた
〈6〉支線の唯一の途中駅、浜河内
〈6〉支線の唯一の途中駅、浜河内
〈7〉浜河内の駅名標
〈7〉浜河内の駅名標

雀田からは細い道が続いていた。線路沿いは住宅地が続いていることも知った(写真〈5〉)。1日3往復からくるイメージとは大違い。浜河内駅に「上陸」した後(写真〈6〉〈7〉)、長門本山に到着。長年、写真でしか見たことのなかった駅を実際に見るのは、やはりいい(写真〈8〉~〈10〉)。浜河内のホームに行けたのも良かった。約1時間の滞在で駅周辺を十分堪能できた。もちろん長門本山のホームには誰ひとりとして訪れなかったけれど。

小野田線は石灰石や石炭運搬のためにできた路線で、もともと旅客輸送は二の次だった。近隣に港も控えているため歴史は長い。大正時代から敷設が始まり、今回の本山支線ができたのは1937年と戦争前夜。かつて長門本山駅近くには本山炭鉱がありにぎわったという。日本中の多くの路線と同じく、戦時中に国有化された。1日3往復しかない支線を含め、決して本数が多くない小野田線すべてが電化されていることに往時をしのぶことができる。

〈8〉終点の長門本山
〈8〉終点の長門本山
〈9〉駅舎はなく待合所だけがある
〈9〉駅舎はなく待合所だけがある
〈10〉長門本山の駅名標
〈10〉長門本山の駅名標

話を戻そう。本州の西端に近く日は長いとはいえ、2月のことだ。夜の6時となって雀田周辺は暗闇に包まれ始めた。すると乗車客6人のうちの1人である女子高生が発車間際の電車を慌ただしく降りていった。「え~っ、降りちゃうの?」。そう叫びそうになった。【高木茂久】

※JRの路線は幹線と地方交通線の2種類がある。基本的に旅客の多い路線や主要路線が幹線で、同距離でも両者の運賃は異なり、地方交通線が若干高い。ただ幹線と地方交通線を乗り継いだ場合は、それぞれの運賃が違うため、地方交通線側に実際の距離よりやや長い換算キロを設定して運賃を調整する。