神戸の中心部を走るにもかかわらず単線で、平日でも運行は朝と夕のみ。日曜となるとわずか2往復で乗車時間はわずか3分。運行事情のみを見ると「山陽本線」とは思えない和田岬線には、他にも数々のナゾがある。ややマニアックだが、今回はそんなことも思い浮かべながら3分の鉄道旅を楽しんでほしい「和田岬線トリビア」。一部筆者の予測も含まれています。

 
 
〈1〉和田岬線の起点となる兵庫駅。かつては貨物線路を有し、山陽電車や市電も入るターミナル駅だった
〈1〉和田岬線の起点となる兵庫駅。かつては貨物線路を有し、山陽電車や市電も入るターミナル駅だった

★貨物用の停車場はないのに貨物駅

かつて兵庫駅の南側には貨物の操車場があった。貨物輸送が成り立ちだった和田岬線が臨港地域へと貨物専用線を有していたからだ。だが国鉄末期にほぼ姿を消した。現在は外部につながる線路はひとつだけで、貨物用の駅は残っていないが、兵庫駅はJR貨物の駅である(写真1)。

不思議な話だが、ひとつだけの線路がミソで、レールは川崎重工の工場へとつながっている。JR各社だけでなく私鉄も含めた車両を製造しており、線路の幅がJRと同じである場合は、機関車にけん引されて各地域に輸送される(※1)。甲種輸送というが、線路の配線上、1度和田岬線の兵庫駅ホームに入って折り返す必要がある。つまり「車両を貨物とした」貨物駅なのだ。新車は企業秘密なので運行時間は明かされていないが、JRの線路を他社の列車が進む姿は壮観である。

〈2〉兵庫駅で出発を待つ103系
〈2〉兵庫駅で出発を待つ103系
〈3〉唯一の水色103系である
〈3〉唯一の水色103系である

★なにゆえ103系?

東京五輪後に製造が始まり、山手線をはじめ都市部の輸送で大活躍した103系だが、現在の保有はJR西日本とJR九州のみで、走っているのは一部地域だけ。もちろん山陽本線にはいない。さらに言うと京浜東北線や東海道・山陽本線緩行線でおなじみの水色塗装は和田岬線だけだ。水色の103系に乗車するため、遠方から訪れる鉄道ファンもいる(※2)が「なぜ?」の疑問は残る(写真2、3)。

朝の務めを終えた103系は兵庫駅から前出の甲種輸送と同ルートで、西に2駅の鷹取方面へと向かうが、実はこの線路は乗務員の訓練線。和田岬線が運行されない昼間に訓練が行われる。私は車両に詳しくはないが、制御システムの関係でJR西日本の幅広い地域の車両事情に対応するには103系が最適だそうだ。

〈4〉線路の向こう側が鐘紡前駅の跡地と推察される
〈4〉線路の向こう側が鐘紡前駅の跡地と推察される

★途中駅があった

3キロにも満たない和田岬線だが、以前は途中に「鐘紡前駅」があった。文字通り工場への通勤用の駅だったが、戦時中の空襲により、工場が被災したため休止駅となり、その後廃駅となった。側線が置けるスペースもあるため、ホーム跡はおそらくここ(写真4)だと思われる。

〈5〉兵庫駅で和田岬線に乗り換えるための専用精算機。利用者が間違えないよう注意書きが数多く書かれている
〈5〉兵庫駅で和田岬線に乗り換えるための専用精算機。利用者が間違えないよう注意書きが数多く書かれている
〈6〉自動改札機を通れない青春18きっぷ利用者のための注意書きもある
〈6〉自動改札機を通れない青春18きっぷ利用者のための注意書きもある
〈7〉和田岬線の乗車方法が掲示されている
〈7〉和田岬線の乗車方法が掲示されている

★「神戸市内」の貴重な無人駅

和田岬は無人駅で券売機もないどころかICOCAエリアの無人駅にある読み取り機もない。すべて兵庫駅の中間改札で処理するためだ。専用の精算機もある(写真5~7)。逆に兵庫駅から乗車する場合は乗車券を買って改札を抜けると数十秒の中間改札で回収される。ちなみに200キロ以上の乗車券を購入する際の「神戸市内」区間では唯一の無人駅である(※3)。

〈8〉通勤時間帯は多くの乗客が利用する
〈8〉通勤時間帯は多くの乗客が利用する

★黒字路線なのに廃線?

日曜は1日わずか2往復と、利用客のいる日時のみ運行される和田岬線は効率の良さから黒字路線だ。ところが9年前に神戸市が廃線を求めたことがある。廃線といえば、赤字路線に悩む鉄道会社が地元にお願いする形が普通。黒字路線の廃線を地元がお願いするなんて、なかなか聞かない(写真8)。

「和田岬線の線路が兵庫運河再開発の妨げになる」との理由だったが、公式な発言はないものの、サッカーW杯に合わせて開業した神戸市営地下鉄海岸線の利用客が伸び悩んでいるため重複路線の廃線を求めたという説がもっぱらだ。

〈9〉和田岬駅の商店街
〈9〉和田岬駅の商店街
〈10〉商店街前の踏切を行く103系
〈10〉商店街前の踏切を行く103系

和田岬駅には歴史ある商店街もある(写真9、10)。飲食店も多い。廃線には商店街が猛反対したという。「お昼休み」を終えた電車が走り始めると飲食店にも明かりがつき始める。ビールがおいしい季節になってきた。夕刻の電車は30分に1本だが、時刻さえ頭に入れておけば大丈夫。ほろ酔いで3分間。そんな旅もあっていい。(写真11、12)【高木茂久】

〈11〉夏の夕日を浴びる和田岬駅
〈11〉夏の夕日を浴びる和田岬駅
〈12〉和田岬駅の車止め。かつてはさらに線路が延びていた
〈12〉和田岬駅の車止め。かつてはさらに線路が延びていた

※1 国内の線路幅は狭軌と標準軌の主に2つ。JRの在来線は狭軌だが、標準軌の車両でも台車に乗せて運べる。陸上輸送や海上輸送で運ぶこともある。

※2 車両点検の関係で東海道・山陽本線の普通主力である207系が使用されることもあり、遠方からの鉄道ファンがガッカリするとか。ただ、この207系も3両×2(標準は3両+4両)という特別仕様である。

※3 神戸市内の無人駅としては福知山線の道場駅があるが、前後の駅が神戸市内にないため神戸市内扱いになっていない。