「最北端の駅」「最南端の駅」という言葉は誰しも聞いたことがあるだろう。頭に「日本」「JR」という冠を付けながら、案内が掲げられ、ちょっとした写真スポットになっていることが多い。しかしこれが都道府県単位だと県民ですら意外と知らなかったりする。では自分と縁の深い県ではどこなのか。兵庫県で4駅を訪れたが、特に「最南端」は興味深い駅だった。(訪問は昨年8月、11月、今年1月)


冒頭で「県民も知らない」と書いたが、正確に言うと「興味がない」かもしれない。南北や東西に長い県ならいざ知らず、確かに兵庫県は広いが台形状で東西南北と言われても正直ピンと来ない。それを表すかのように最北端は山陰本線の佐津(香美町)である(写真1)。海水浴で有名で明治来の駅舎が残る。ただ山陰本線は日本海に沿うように敷設されているので「最北端」という言葉があてはまるかどうか微妙だ。

〈1〉兵庫県最北端の佐津駅
〈1〉兵庫県最北端の佐津駅

最西端は姫新線の上月駅(佐用町)。戦国時代に羽柴秀吉と毛利輝元が争った上月城で有名なだけあって国境である。ちなみに姫新線の運行上の県最西端は、ひとつ姫路寄りの佐用で、上月へは時刻表を入念に見る必要がある(写真2)。

〈2〉兵庫県最西端の上月駅
〈2〉兵庫県最西端の上月駅

最東端は阪急神戸本線の園田駅(尼崎市)。園田競馬で有名だが、実を言うと弊社が豊中市にあった時代の神戸側の最寄り駅(といっても徒歩30分ほどかかった)で、駅周辺の飲食店は昼も夜も大変お世話になった思い出深い駅である(写真3)。

〈3〉最東端となる園田駅
〈3〉最東端となる園田駅

大阪府豊中市の会社に尼崎市の駅から通っていたわけで府県境だということが、よく分かる。厳密に言うと最東端は妙見の森ケーブルの山上駅(川西市)だが、現在は冬季運休中なので通年営業の園田を挙げた。

そして最南端が今回のメインである山陽電鉄本線の東垂水。名の通り垂水の東隣で神戸市垂水区にある。最北端の佐津と同じで最南端と言われても山陽電車、JRともに瀬戸内海に沿うように走っているので「端」のイメージがわかない(それでも三宮沖の人工島を走るポートライナーより南だと聞くと驚く人は多い)。わかないが、この駅は単体でも見どころ十分なのだ。

まず駅の南側をJR山陽本線が走ることに少し驚かされる。最南端駅の南側に線路。付近に駅があれば、その座を奪われるのだが幸い(?)にしてレールだけ。最南端の称号は守られている。

次に改札を出てみよう。北口と南口があるが、まずは北口。階段を上がる(写真4~6)。

〈4〉無人駅で自動改札がある
〈4〉無人駅で自動改札がある
〈5〉東垂水駅は2面2線の構造
〈5〉東垂水駅は2面2線の構造
〈6〉階段を少し上がると北出口に出る
〈6〉階段を少し上がると北出口に出る

すると、うーむ、あまりにもシンプル過ぎる構造に目が点になってしまった。標高25・8メートルとあるので結構高い。だから景色も良い。明石大橋を臨む眺望は抜群。駅の北側はビッシリと住宅街だ(写真7、8)。

〈7〉きわめてシンプルな作りとなっていて標高25・8メートルの表示がある
〈7〉きわめてシンプルな作りとなっていて標高25・8メートルの表示がある
〈8〉明石大橋を臨むことができる
〈8〉明石大橋を臨むことができる

次に南口に向かう。こちらも北口とは別の意味で目を引く。南口を出るといきなり遭遇するのは長大な歩道橋である。もちろん階段。エレベーターはない。もっともそれは当然で前述した通り、山陽電鉄の南側にはJRの線路(複々線なので4線分)があり、その下(南)は国道2号線。このすべてをまたがなければならないのだから長くなる(写真9、10)。

〈9〉駅としての南口はこちらだが事実上、歩道橋の下が南口である
〈9〉駅としての南口はこちらだが事実上、歩道橋の下が南口である
〈10〉国道へはかなり下まで降りる必要がある
〈10〉国道へはかなり下まで降りる必要がある

鉄道2社は須磨から西は明石市との市境あたりまで海沿いに進むが、平地の部分は鉄道と国道のスペースしかない。しかも国道が鉄道2社に挟まれたり、JRと山陽電鉄の上下が変わったりで、器用に作っているなぁ、といつも感心してしまう。

折り重なる歩道橋を降りると、ようやくゴール。平磯横断歩道橋と名前があるが、実質的な南口はこちらになる。高低差25・8メートル。なかなかの距離である(写真11~13)。

〈11〉長い歩道橋が続く
〈11〉長い歩道橋が続く
〈12〉上から下へ山陽電鉄とJRの複々線が並ぶので初めて見ると3つの路線が並ぶように見える
〈12〉上から下へ山陽電鉄とJRの複々線が並ぶので初めて見ると3つの路線が並ぶように見える
〈13〉事実上の南口は公園の中にある
〈13〉事実上の南口は公園の中にある

ただこの東垂水駅。付近の住民の皆さんだけではなく、一定の需要がある駅でもある。歩道橋を渡った南口にあるのは広い緑地公園。スポーツガーデンと海釣り公園があり、最寄り駅としての利用がある。弊社の釣り担当からも東垂水駅への交通費精算書が出てきて個人的にちょっとうれしくなったりする。景色も高低も味わえる最南端駅。普通のみの停車だが昼でも15分に1本とアクセスは便利なだけに、ぜひ訪れてほしい駅である。またあなたの都道府県の東西南北も訪ねてみてはいかがでしょう。【高木茂久】

〈14〉滝の茶屋駅の夕暮れ
〈14〉滝の茶屋駅の夕暮れ

○…お隣の駅が眺望で有名な滝の茶屋である。東垂水付近から続く平磯緑地が少しかかるが、下りホームに立つと瀬戸内海が一望できる。夕方はホームから明石大橋方面にかかる夕日を見ることができる(東垂水のホームからは構造上西側が見にくい)。ただ東垂水と異なり、2号線側(海側)からは駅にアプローチできない(だからこそ景観がいいともいえる)ので要注意(写真14、15)。

〈15〉滝の茶屋の駅名標
〈15〉滝の茶屋の駅名標