午前3本、午後3本という福塩北線をバスも利用して各駅巡りしようと北線と南線の結点である府中からスタートした旅。雨という難敵にも見舞われ、結局は長時間待機を強いられることに。ただミッションのひとつだった府中お好み焼きはおいしくいただきました。(訪問は4月4、5日。バスの時刻は時刻表の時間です)

◆(バス)矢多田13時14分→河佐安藤13時38分

〈1〉矢多田のバス停は片面しかないタイプだった
〈1〉矢多田のバス停は片面しかないタイプだった

冷たい雨の中、バスを待つ(写真1)。3分が過ぎ、5分が過ぎても現れない。1日4本しかないバス(休日ダイヤ)である。不安に襲われる。鉄道であれば無人駅でもスピーカーで列車遅れの案内があるはずだが、山中のバス停にそのようなものがあるはずもなく、たとえ1時間遅れてもアナウンスはないだろう。

その少し前、備後矢野駅で福縁阡うどんをすすりながら、この後の道程を考えていた。当初考えていたのは備後三川駅までの徒歩。府中方面からここまでのバスは県道を走ってきたが、備後矢野駅付近から世羅町の中心部へ国道が走り、備後三川駅付近までほぼ福塩線と並行している。バスの運転手さんが旧道と表現していたのは、おそらく備後矢野駅前の道路だろうが、真っすぐ行くと国道と合流。長いトンネルがある(経験上、地方のトンネルというのは徒歩に適さないものが多い)ものの、旧道と思われるトンネル回避の道路もあるようだ。何より線路と並行しているのが心強い。地形的にはやや下りのはずで約4キロ。1時間もあれば歩けるだろう。

が、雨の強さに断念。だから前述した道路状況はすべて私の推測である。プランBは矢多田のバス停から府中方面へ向かいバス約20分の落合というバス停で降りると河佐駅まで徒歩30分ぐらいか。こちらもトンネルが待ち構えるが遠回りして川沿いに迂回(うかい)する道もありそうだ。しかしこちらも断念。天気予報の悪さから考えていたプランCに落ち着いた。

◆(徒歩)河佐安藤バス停→中畑駅7分

〈2〉中畑駅に近い河佐安藤で降りる
〈2〉中畑駅に近い河佐安藤で降りる
〈3〉中畑駅は川の向こうにあり、待合所だけなので見逃してしまうかもしれない
〈3〉中畑駅は川の向こうにあり、待合所だけなので見逃してしまうかもしれない

矢多田の停留所は片側のみにしかなく上下行き、府中行き両方の時刻が記されている。初めてだと戸惑ったろうが、これは昨夏、因美線のバス巡りをした経験が生きた。向かいに立っていると7分遅れほどでバスが姿を見せた。「お~い」と手を振ると止まってくれた。

〈4〉中畑駅と河佐安藤のバス停の位置関係はこんな感じ
〈4〉中畑駅と河佐安藤のバス停の位置関係はこんな感じ

降りた停留所は「かわさやすとう」と読む。バスに乗っていると次の停留所名が表示され、読みを考えている間にアナウンスがあるのだが不正解の連続だった。もちろんこちらも不正解だったバス停は中畑駅まで近い。といっても川の向こうで橋を渡る必要がある。高知県の沈下橋と同じで地元の方は慣れたものだろうが、これを車で渡れと言われると私はちょっと尻込みしてしまうかもしれない(写真2~4)。

◆(福塩線)中畑15時21分→備後三川15時38分

〈5〉中畑駅は1面の棒状駅。待合所だけで駅舎はない
〈5〉中畑駅は1面の棒状駅。待合所だけで駅舎はない
〈6〉中畑駅の駅名標。ホームの桜は葉桜になりつつあった
〈6〉中畑駅の駅名標。ホームの桜は葉桜になりつつあった

ということで今回も鉄道の話まで随分時間を要した(笑い)。中畑駅は戦後に設置された棒状駅。中国山地で戦後設置の駅は待合所だけの簡易駅が多いが、こちらもその形式(写真5、6)。そしてこちらで1時間半、午後の「始発」を待つことになる。ただ雨がしのげるだけ十分に天国だ。虫が多発する季節でないのも良かった。「ホーホケキョ」など数々の鳥の声を聞きながら時間を過ごし、ようやく福塩北線に乗車である。府中駅をたって5時間も経過している(写真7)。

〈7〉待ちに待った列車がやってきた
〈7〉待ちに待った列車がやってきた
〈8〉臨時列車の運転日カレンダー(府中駅で)
〈8〉臨時列車の運転日カレンダー(府中駅で)

午前、午後の3本ずつとはいえ、通勤通学に特化しているので10時台から14時台まで列車はない。ただし例外もある。不定期ながら昼間に上り、下り1本ずつの臨時運行が行われ、これがあると駅巡りがグンと楽になる(※)。ちなみに4月の運転日は6日と7日で私が訪れたのは4日と5日(泣)。まぁ休みを利用しているので、なかなかそううまくはいかない(写真8)。

◆(福塩線)備後三川16時1分→府中16時34分

〈9〉ログハウス調の備後三川駅駅舎
〈9〉ログハウス調の備後三川駅駅舎
〈10〉ダム湖に沈んだ八田原駅の駅名標は湖のほとりの資料館に保存されているが、さすがに遠すぎて断念した
〈10〉ダム湖に沈んだ八田原駅の駅名標は湖のほとりの資料館に保存されているが、さすがに遠すぎて断念した

福塩線には「幻の駅」がある。備後三川~河佐間にあった八田原。平成の声を聞くとともに八田原ダムに沈んだ。福塩線の線路も付け替えられ、駅間は、ほとんどトンネルとなっている。府中~上下の開業で1938年に全通した福塩線の線路部分では戦後に手が入った箇所。備後三川を河佐方面に出てすぐに線路が変わったため、それに対応すべく駅のホームは扇形にされた(写真9~12)。ログハウス風の三角屋根を持つ立派な駅舎で世羅町唯一の駅(ただし町の中心部からは遠い)となっている。

〈11〉備後三川駅の駅名標と名所ガイド
〈11〉備後三川駅の駅名標と名所ガイド
〈12〉駅の南側でレールが曲がる形になったことに対応するためホームも扇状に変えられた
〈12〉駅の南側でレールが曲がる形になったことに対応するためホームも扇状に変えられた

この後、府中行きの午後の「始発」に乗る。河佐で降りて1時間半待てば上下駅が来る。上下に宿泊すれば、上下~府中間をすべて巡れたが、この日は府中泊。河佐で2時間待つという選択肢もあったが、結論として河佐はあきらめた。上下泊か府中泊か直前まで迷い、府中で府中焼きを食べるという意志が勝り、府中泊を選択したので、お店が混まないうちに早めに行かないと(単に早く飲みたかったという話もある)。

〈13〉念願の府中焼きを堪能できた
〈13〉念願の府中焼きを堪能できた

ただ良いこともあった。中畑駅からご婦人が乗ってきたのだ。利用者が極めて少ないと聞いていた同駅からの乗車。昨夏、知和駅で定期利用の高校生を見た時と同じくらいうれしかった。駅からすぐの府中第一ホテルさんでは荷物を預かってくれた上、バスの発車までの1時間ほどをロビーで休むことができた。おかげで、朝からほぼ手ぶら状態でその後を過ごせることに。そうでなければ雨中に矢多田から備後矢野まで歩く気力もなかったかもしれない。話に聞く八嶋智人さんのローカル情報番組も見ることができた。翌日は超早起きである。府中焼きに満足した後は、酒はほどほどにして宿で翌日の行動を反復することにしよう(写真13)。【高木茂久】

※臨時列車は市販の時刻表には掲載されないので注意。