2日間にわたってバスと鉄道を駆使した福塩北線の旅もようやくゴールが見えてきた。ただ時間ギリギリの駅間徒歩が待ち構える。それでもレールからではないバスからの景色は発見と体験の連続。途中ついつい居眠りしてしまったが、とにかく午前3本しかない列車を使って路線名になった「終点」の塩町に到達。密度の濃い時間となった。(訪問は4月4、5日)


◆(徒歩)甲奴7時45分→梶田8時12分

甲奴駅を降りて私の目に飛び込んできたのは「予約制バス乗り場」の文字だった。ちょっと焦った。詳細に説明すると長くなるので簡潔に書くが、地方に行くと旅人がその場で乗れるバスと乗れないバスがある。路線バスの扱いになっていると地元のコミュニティーバスであっても乗ることができるが、予約制となっているものは乗れないものが多い。(写真1、2)

〈1〉甲奴に到着したキハ120
〈1〉甲奴に到着したキハ120
〈2〉おそらく手書きと思われるユニークな駅名板
〈2〉おそらく手書きと思われるユニークな駅名板

今回、出発するにあたって最も参考にさせていただいたものが三次市の「みよしバスナビ」というHPで市内のバス路線と時刻表が詳しく掲載され、路線バスと予約制バスの区別も一目瞭然。今回は甲奴駅前から梶田、吉舎、三良坂、塩町を経て三次駅へ至るバスを利用する予定で、これは路線バスだと何度も確認したはずだが…と思っていると運転手さんが、たまたま通りがかった。尋ねると「路線バスですよ」と時刻表の前に連れていってくれてホッ。

「どちらへ?」

「梶田から乗って三良坂方面へ」

「梶田から??」

「ええ、福塩線の駅巡りをしていまして、梶田まで歩いてこのバスに乗って…」

基本的にバスは目の前の停留所から乗るもので、数キロ先まで歩くとか、不審な乗客と思われたかもしれないが、それぞれのバス停と駅の位置関係を教えてくれ、大いに助かった。お礼を述べ速足で甲奴駅をあとにする。(写真3)

〈3〉甲奴駅の駅舎内。窓口は残るが今は無人駅だ。撮影の時点ではタクシー会社が重要だった
〈3〉甲奴駅の駅舎内。窓口は残るが今は無人駅だ。撮影の時点ではタクシー会社が重要だった

速足には理由がある。甲奴駅をバスが出るのは8時20分で5分で梶田に着く。現在の時刻は7時45分。福塩線の甲奴~梶田は2・4キロ。道路はほぼ並行しているから同距離とみていいが、梶田駅とバス停は川をはさんでいて徒歩5分はかかる。午前の列車は残り1本しかない。つまり約30分で梶田駅に到達しなければ計画は水泡に帰すのである。今日は雨はなく上り坂もない。条件だけなら何とかできそうだが初めて来る道路で土地勘もないため、少しでも間違えるとジ・エンドになってしまう。

◆(バス)梶田8時25分→三良坂駅前8時55分

ひたすら早歩きで、結論を言うと冒頭に時刻を書いた通り間に合った。もうゼーゼーである。念のために甲奴駅でタクシー会社の電話番号を控え、もしもの場合はタクシーで追うことも考えていたが、その必要はなくなった。梶田駅は棒状駅で戦後生まれらしく駅舎のない簡素な造りとなっている…て、すいません。駅には3分も滞在したかどうか。単なる「訪問」になってしまいました(謝)。ただバスの姿を見た時はうれしかった。(写真4~7)

〈4〉梶田駅の入り口
〈4〉梶田駅の入り口
〈5〉梶田駅は待合所だけの簡素な構造
〈5〉梶田駅は待合所だけの簡素な構造
〈6〉梶田の駅名標とホーム
〈6〉梶田の駅名標とホーム
〈7〉バスに間に合った
〈7〉バスに間に合った

さて今回の旅は「日月」という日程で行った。その理由は梶田のバス時刻表を見れば分かる。福塩線近辺のバスは土日運休が多いのだ。それゆえ日月と休みをとって、今回の旅と相成った。ただ時刻表だけを見ると曜日よりも本数に目が行くかもしれない。8時台と15時台のたった2本。もっと本数があれば強い味方になるのだが…。ただ前日からバスも列車も1日4本とか6本に慣れてしまったのか、あまり何も感じなくなっていた。このダイヤは病院に合わせていると思われる。(写真8、9)

〈8〉赤い丸の裏あたりに梶田駅がある
〈8〉赤い丸の裏あたりに梶田駅がある
〈9〉梶田バス停の時刻表
〈9〉梶田バス停の時刻表

そしていまさらながら初めての体験をする。バスの乗降自由区間。吉舎(きさ)の町に入ったあたりから、その旨のアナウンスが流れ、結構人も乗ってきた。初の光景にちょっと感動してしまった。

◆(福塩線)三良坂9時38分→塩町9時46分

三良坂は2階が多目的ホールとなっている立派な駅舎だ。駅としては無人で、かつての2面ホームは今は跡だけが残り1面のみ。重要ポイントだったのは1階に入るタクシー会社の存在。午前の三次行きはあと1本しかなく適宜なバスもないが、ここから吉舎駅までタクシーに乗る計画。吉舎からバスで10分だったので、タクシーでそれ以上の時間を要することはないはず。今は9時すぎで吉舎発の塩町方面三次行きは9時29分。楽勝である。ナビタイムによるとタクシー代は2100円。タクシーも立派な公共交通機関だ。ではこの旅初のタクシーに乗り込んで…と思ったら乗れなかった(汗)。(写真10~12)

〈10〉三良坂の駅舎には多目的ホールがあり、タクシー会社が入居している
〈10〉三良坂の駅舎には多目的ホールがあり、タクシー会社が入居している
〈11〉三良坂の駅名標とホーム。かつては2面ホームがあったが、今はフェンスの向こうに跡が残るのみ
〈11〉三良坂の駅名標とホーム。かつては2面ホームがあったが、今はフェンスの向こうに跡が残るのみ
〈12〉三良坂の駅名標とホーム入り口
〈12〉三良坂の駅名標とホーム入り口

理由は豪華な待合室の存在。座敷まである。この日は4時半起床だった上、朝は大変寒かった。ひと桁の気温に対応できる服装ではなく、途中の徒歩の疲労も加わり、すこやかな待合室に腰を下ろした瞬間、いつの間にかウトウトしてしまったようだ。大した時間ではなかったが、ハッと目覚めると9時15分。断念となり同38分の列車に乗り込み、隣駅の塩町に向かう。まぁ、この列車は午前の最終で、この後約7時間列車がない。乗り遅れないで良かったとしよう。(写真13)

〈13〉三良坂の待合室が立派すぎて、ついウトウトしてしまった
〈13〉三良坂の待合室が立派すぎて、ついウトウトしてしまった

ゴールとなる塩町は芸備線との分岐駅で戦前からの駅舎が残る。塩町~三次間は福塩線と芸備線、両者の列車が走り、ここまで来れば本数は気にしなくて済む、と言いたいところだが、なかなかそうはいかない。こちらも平日で1日7往復。だが私が乗ってきた福塩線だと塩町で約30分後に芸備線の三次行きが来るという貴重な時間帯だ(ちなみにこの後5時間以上列車は来ない)。さっそく分岐を見に行く。山中のX字分岐には25キロ制限の標識があった。今度来る時は、ゆっくり分岐を渡ってくる列車を見たい。そう思った。【高木茂久】(写真14~18)

〈14〉塩町の駅舎
〈14〉塩町の駅舎
〈15〉塩町の時刻表。三次方面は芸備線、福塩線の2路線が乗り入れるが13時台と14時台は臨時列車のため、10時14分の後は5時間列車が来ない
〈15〉塩町の時刻表。三次方面は芸備線、福塩線の2路線が乗り入れるが13時台と14時台は臨時列車のため、10時14分の後は5時間列車が来ない
〈16〉塩町の駅名標
〈16〉塩町の駅名標
〈17〉福塩線(右)と芸備線の分岐ポイント。X字となっている
〈17〉福塩線(右)と芸備線の分岐ポイント。X字となっている
〈18〉甲奴と梶田の徒歩区間で。朝の8時ごろは気温9度だった
〈18〉甲奴と梶田の徒歩区間で。朝の8時ごろは気温9度だった