越美北線は北陸本線の越前花堂駅(福井県福井市)から分岐して九頭竜湖駅(福井県大野市)までの52キロを結ぶ地方交通線。ローカル線漂うムードの中、キハ120がのんびりと1駅ずつ走っていくが、今年の5月に衝撃的なニュースが流れた。大糸線乗車の後にやってきたのは、まだ半袖の9月18日だった。

金沢で北陸新幹線から在来線特急に乗り換えて福井に到着したのは午後1時半。本編には全く関係のない話だが初めて「しらさぎ」に乗った。現在、金沢~敦賀間は「サンダーバード」「しらさぎ」の2つの特急が運行されている。前者は大阪と金沢を結び、後者は名古屋または米原と金沢を結ぶ。私の場合は必然的にサンダーバード利用となるので初乗車となった次第。車両はおそらくかつて北越急行で使用されていたものだ。(写真1、2)

〈1〉しらさぎに初乗車
〈1〉しらさぎに初乗車
〈2〉かつて北越急行で活躍していた車両のようだ
〈2〉かつて北越急行で活躍していた車両のようだ

JRの規定では越前花堂を起点とする越美北線だが、実際はすべての列車が福井発着。そして私が向かったのは、まずバス停である。定番の理由だが、しばらく列車がないのである。1時間半待ち。そして分かっていたことだが、駅前のバスターミナルは非常に大きい。時間がないと焦るパターンだが、30分ほどあるので当該停留所を確認した後、福井に来る度に恒例となりつつある今庄そばで腹ごしらえ。今庄そばの歴史も語りたいところだが、いつまでも本題に移れないので、またの機会にしておこう。(写真3、4)

〈3〉福井駅前のバスターミナル。とにかく大きい
〈3〉福井駅前のバスターミナル。とにかく大きい
〈4〉駅の構内にある今庄そば。よくお世話になる
〈4〉駅の構内にある今庄そば。よくお世話になる

バスに揺られて向かったのは市波。路線に共通するのは多くの駅が駅舎を持たない待合室のみの棒状駅だということ。いずれも敷設時からの姿だ。線路も国道に沿っているので本来は道から見えやすい駅が多いが、遠くから見てもらおうという自己主張が控えめで、うっかりすると見逃すことが多い。市波は国道と駅が数十メートル離れているため、車を運転していても見逃す可能性が大きい。以前運行されていた快速の停車駅で周囲は町となっているが、駅はスロープを上がるだけのもの。(写真5、6)

〈5〉市波駅は待合室のみの構造。スロープでホームに入る
〈5〉市波駅は待合室のみの構造。スロープでホームに入る
〈6〉市波の駅名標
〈6〉市波の駅名標

ここで30分ほど列車を待つが、待合室にはJRの時刻表とは別の時刻表があった。乗ってきた私はすぐ分かった。停留所の名前もないがバスの時刻表。越前大野まで、ほぼ1時間に1本。越美北線は越前大野まで1日9往復(当時)。バスの方が圧倒的に本数が多いのだが、駅の待合室に列車の時刻表と並んでバスの時刻表とは珍しい。後で回ると多くの駅に張られていた。(写真7~9)

〈7〉市波駅の時刻表(当時)
〈7〉市波駅の時刻表(当時)
〈8〉待合室にバスの時刻表が張られていた
〈8〉待合室にバスの時刻表が張られていた
〈9〉キハ120で美山へと向かう
〈9〉キハ120で美山へと向かう

今年の5月、大きなニュースが流れた。越美北線の減便が検討されており、秋のダイヤ改正で福井~越前大野間の9往復のうち8割を、越前大野~九頭竜湖の4・5往復すべてを減便するというもの。これだと福井~越前大野の3・5往復しか残らない。私が乗車した時点で結果は出ていて前者が7・5往復、後者はそのまま(運転時刻は変更)という小規模なものに収まったが、大幅な減便が検討されているというだけでも衝撃は大きい。競合関係にあるバスの時刻表なんて駅の待合室には、なかなかないものである。ニュースに触れた後だけに、ちょっと複雑な気分になってしまった。

キハ120で美山へと向かう。かつての美山町の中心駅で越美北線で数少ない駅舎のある駅。美山観光ターミナルが入る。そのまま折り返して下車したのは、こちらも駅舎のある越前東郷。かつては列車交換できる駅だったが、今は1面だけ。かつて城下町として栄えた説明板がある。翌日、駅近くをバスで通ると用水路を伴った東郷地区の美しい街並みを知った。次の列車まで2時間もあったので、回れば良かったと後悔もしたが、とにかく駅訪問人の悲しいさがで2時間もあるなら、観光よりも次の駅まで歩こうと考えてしまうのである。(写真10~15)

〈10〉美山は駅舎がある越美北線の数少ない駅
〈10〉美山は駅舎がある越美北線の数少ない駅
〈11〉美山はすれ違い可能な構造となっている
〈11〉美山はすれ違い可能な構造となっている
〈12〉越前東郷の駅舎
〈12〉越前東郷の駅舎
〈13〉以前はすれ違い可能だったが現在、1面を保線車の留置線にしているため実質1面となっている
〈13〉以前はすれ違い可能だったが現在、1面を保線車の留置線にしているため実質1面となっている
〈14〉駅前には城下町として栄えた町の歴史が記されていた
〈14〉駅前には城下町として栄えた町の歴史が記されていた
〈15〉「おつくね」とはおにぎりのことで年に1回「おつくね祭」が開かれる
〈15〉「おつくね」とはおにぎりのことで年に1回「おつくね祭」が開かれる

お隣の駅は福井に向かって足羽そして六条と続く。線路だけの駅間距離は、それぞれ2キロそして1・4キロと近い。2駅ぐらい十分歩けるだろうと歩を進める。新興住宅街の光景が続く。だがしばらくすると雨風が強くなってきた。訪問時は台風が日本列島に接近していたが、前日までの大糸線は少しの雨はあったものの、ほぼ影響なし。この日も降ったりやんだりではあったが、普通に傘があれば大丈夫だった。それがなにゆえ駅間徒歩を始めてから傘が役に立たないほど猛烈な風まで吹いてくるのか。

しかも足羽駅に向かうと道がカーブして駅から離れていく。遠くに駅が見えたが田んぼの真ん中。ちなみに福井から越前花堂をはさんでも3駅目。列車ならわずか10分で到着する駅なので、周囲は街並みが広がっていると思い込んでいた。強引に直進したが、かえって遅かったかもしれない。デジャヴである。わずか1週間前に近江鉄道の朝日野駅に向かう際も同様の体験をした(11月11日の記事)はずだが、まるで進歩がない。(写真16~18)

〈16〉田んぼの真ん中にある足羽駅
〈16〉田んぼの真ん中にある足羽駅
〈17〉足羽の駅名標
〈17〉足羽の駅名標
〈18〉小さな階段を上ってホームに入る簡素な構造
〈18〉小さな階段を上ってホームに入る簡素な構造

ようやく駅にたどり着いた時はびしょぬれだった。それにしても近くに中学校があるだけで本当に田んぼの中。とにかく雨風のおかげで、これ以上隣の駅まで歩く気力がなくなった。列車が来るまで、あと1時間半。どうしようかと調べると、私が最初に乗った路線とは別の路線バスの停留所が徒歩10分ちょっとぐらいのところにある。うまい具合に20分後に福井駅行きのバスが来るようだ。

これに乗るしかないだろうと歩く。道に迷うと乗れない恐れもあったが、何とか1日6本のバスのうち1本に間に合った。皮肉にも停留所に到着したころには雨はやんでいたが、とにかく接近してくるバスを見た時はうれしかった。乗客は私の他に1人。乗り込んできたびしょびしょの男を見てビックリしたかもしれない。まぁ、明日は好天のようだ。今日は福井の繁華街・片町に宿を確保している。服を着替えてウマい地酒でも飲むことにしよう。【高木茂久】(写真19~20)

〈19〉バスが来るとうれしい
〈19〉バスが来るとうれしい
〈20〉1日6本(土日ダイヤ)のバスに間に合った
〈20〉1日6本(土日ダイヤ)のバスに間に合った