ウミネコが海辺に立つホテルの窓辺まで来て羽を休めていた。その向こうにはキラキラと朝日に輝く宮城県・志津川湾が広がる。ホタテ、カキなど養殖棚が一面に浮かんでいた。穏やかで豊かな光景。ただ、湾曲した湾の向こう岸を望めば、茶色の更地の丘が広がり、その中に首を長く突き上げた赤いクレーン車が何台も見える。震災後、はや7年目の初夏だ。


ウミネコ、美しい海、新鮮な味覚そして更地のクレーン…

志津川湾観光船に乗ると、ウミネコが船を追いかけてくる
志津川湾観光船に乗ると、ウミネコが船を追いかけてくる

 「まだまだ…」と「少しずつ…」の思いが交錯しながら「復興」へ向かって、南三陸町は町全体が力強く響き合っているようだった。

 宿泊した「南三陸ホテル観洋」のおかみ・阿部憲子さんは言う。

 「被災当時と比べれば、それはいろいろ変わってきている。例えば、当時は、自分の家が半壊していても、全壊した人が目の前にいれば、苦しい思いも口にできなかった。でも、今なら勇気を出して言える。本音が出てきた。そういう気持ちを、行政や取材に来てくれる人も、もっと細かく聞いてもらいたい。その声が、今後の大事な教訓にもなると思う」

 「さんさん商店街」がこの春、3月にグランドオープンした。売り場面積3000平方メートルで、28店舗が入る。

 理容店もあれば、整骨院、仏具屋さんなどバラエティーにも富む。が、目玉はなんといっても、海の食材を使った食堂、レストランである。

 イクラ、ネギトロ、タコ、ウニなどが、どっさりと丼に盛られた「南三陸キラキラ丼」を食べた。海を目の前にして食べる新鮮な味。そして地元の人の思いが詰め込まれた丼。おいしくないはずがない。

 「南三陸はうまいものがいっぱいあるでしょ」。お店の人もちょっと胸を張る。

 ここでは、旬の魚を丼で提供するメニューを「キラキラ丼」(イクラのキラキラ輝くさまから命名)と名付け、季節に合わせ「春つげ丼」「うに丼」「秋旨丼」「いくら丼」と四季折々で楽しめるよう工夫している。各店、共通の約束事は、「地元の魚」と「地元の米」を提供すること。

3月にオープンした「さんさん商店街」
3月にオープンした「さんさん商店街」

 「さんさん商店街」も立ち上げるにあたっては、いろいろ苦労もあった。

 当初は100件近くの申し込みがあった。ただ、共同部分(トイレや食事スペースなど)の建設費用もかかるし、イベントや取材の対応も協力態勢でやらなければならない…。次第に「無理かも…」という店も出てきた。そして結局は28軒でのオープン。ただ、今のところ予想以上の集客力で滑り出しは上々だという。

 そして、この集客を3年、5年とどう長続きさせるのか?

 「南三陸にはボランティアの人が、この5年、6年で10万人も来てくれました。これは仙台、石巻に次いで3番目なんですね。そういう人たちが『今度はお客として食べに行くよ』と言ってくれている。観光客としてのリピーターになってくれると言うんです。すごくうれしいし、心強いですよ」(南三陸町商工観光課・宮川舞さん)。

 この夏には震災以来初めて海水浴場が再開できる。宮城県でも指折りの海水浴場「サンオーレそではま」だ。

 「あの震災の時は、3月でした。被災当時の映像をテレビで見た人が、毛布をかぶって雪に震え、寒い、寒いと凍える人たちの姿に『あれが南三陸かと思った』いう声も正直聞きました。でも本当は違う。特に夏は花も咲き、おいしい魚も存分にある。そして何より美しい海が輝いている。そんな南三陸を見に来ていただきたいんです」。宮川さんの目は熱く輝いていた。

 南三陸、行ってみませんか! 【馬場龍彦】


 ◆問い合わせ 「南三陸町観光協会」☎0226・47・2550。「びゅうばすでめぐる宮城沿岸元気たび」☎0570・04・8928。「南三陸ホテル観洋」☎0226・46・2442。

南三陸町とその周辺
南三陸町とその周辺

410円で砂金採り体験

 ◆細倉マインパーク 東北新幹線くりこま高原駅から20分ほどの地に1987年(昭62)に閉山した宮城県最大の鉱山「細倉鉱山」の跡地がある。現在は「観光坑道」として公開されている。

 460円の入場料で中に入れば、往時をしのばせる広大な坑道や、作業風景がリアルな人形で再現されていて興味深い。奥に進むと「砂金採り体験」(410円)もできる。実際にザルを使って探してみたが、つまようじの先ほどのキラキラの金をザルの中に見つけた時は、ちょっと感激。

細倉マインパークでは砂金探しも楽しめる
細倉マインパークでは砂金探しも楽しめる

街の全体像もちょっぴり見えてくる

 ◆志津川湾観光船 海から南三陸町の今の様子を見るのには湾内を走る「観光船」(1100円)に乗るのもいい。「ホテル観洋」が営業している船で、朝10時30分発、約1時間のクルージングだ。

 沖に出て陸地を振り返るように見れば、新しく造ろうとしている街の全体像が、なんとなくだが見えてくる。真新しい「市場」の全体像や、丘の奥に立つ高校などの位置関係も一目瞭然である。

 また、カキやワカメなど養殖棚を世話する漁師さんの仕事風景も見られた。途中、ウミネコがせんべいを求めて船と並走するのは、観光船おなじみの光景だ。


お地蔵さんに真新しい献花

 ◆防災対策庁舎  南三陸町の茶色の盛り土の中をバスでくねくねと進むと、突然のように防災対策庁舎が見えてくる。昨年末から補修工事でシートに覆われていたが、そのシートもとれ、赤色に塗装され、折れ曲がった鉄骨も修復された。

 関係者に聞くと「さび止めを施し、塩分も除去した」とか。震災の遺構として保存するかどうか、町民の中では「保存」と「解体」で意見が分かれていたが、今は、震災から20年となる2031年の3月10日まで県が保有して維持・管理することになっている。その真下までは近づけなかったが、お地蔵さまが建てられた献花台があり、そこにはいくつも真新しい花が手向けられていた。

防災庁舎の前の地蔵には真新しい献花が…。手を合わせる人は絶えない
防災庁舎の前の地蔵には真新しい献花が…。手を合わせる人は絶えない

日本2番目のラムサール条約湿地

 ◆伊豆沼、内沼  東京オリンピックのボート場候補として話題になり、小池百合子都知事も訪れた宮城県登米市の長沼。東北新幹線くりこま高原駅から約15分のところにある。

 今回は、その長沼ではなく隣接する伊豆沼、内沼の見学をした。

 というのも、ここは釧路湿原に続いて日本で2番目にラムサール条約湿地に登録された水鳥の越冬地。冬は10月から2月にかけてマガン、オオハクチョウの飛来で有名。 特にマガンの「ねぐら入り」「飛び立ち」の瞬間を求めて多くのカメラマンが集まることでも知られている。

 もうひとつ、この沼の横のレストラン「くんぺる」は、地元のブランド豚「伊達の純粋赤豚」が食べられることで観光スポットにもなっている。

 人気メニューの「ポークロースグリル」(1240円)を食べたが、脂身も上品な味わいで、しっとりとした感じ。180グラムが意外にあっさりと食べられた。お薦めかもしれない。

「伊達の純粋赤豚」。ステーキは絶品
「伊達の純粋赤豚」。ステーキは絶品