飛行機の窓から真っ白な富士が雲海の中に鮮やかに見えた。富士も白、雲海も白…、その美しい光景は旅の途中で思わぬプレゼントをもらったような心持ちにさせてくれた。今回の旅の目的地は和歌山県である。朝10時30分、羽田をたち、南紀白浜空港には11時半過ぎにもう到着していた。
和歌山といえば、熊野古道、高野山、パンダ…と見どころは多いが、今回は、ちょっぴり渋め(?)である。
「安珍・清姫」の伝説の舞台となった道成寺である。歌舞伎、能楽、人形浄瑠璃などで「道成寺物」として演じられる、あの道成寺。そこのお坊さんにお話を聞かせていただくという段取りである。
実は、この道成寺にお参りし、お話を聞く旅行、人気も高く年間約10万人も観光客が来ているという。それではまずは、どんなお話か…、その概略から、始まり始まり…。
- 道成寺は能楽や歌舞伎の舞台にもなった古刹(こさつ)
平安時代、奥州から熊野詣でに来た修行僧・安珍。今の田辺市の宿に一夜を求めます。そこで、この安珍に一目ぼれした清姫は求婚。困った安珍は「熊野詣での帰りに、もう1度寄りますから」と約束し、そのまま、帰りには別の道で…、帰ってしまう。それを知った清姫は怒って大蛇に姿を変えて追いかける。そして、ここ、道成寺に逃げ込んだ安珍を火を吐いて焼き殺し、自分も川へ身を投げて死んでしまう…。
とまぁ、激しい悲恋物語。
絵巻物を使って、紙芝居のように話をしてくれるのが道成寺の院主・小野俊成氏。
小野氏によれば、「今風にいえば大変なストーカー物語です。『こうまでして追いかけてくれる女性がいたら、むしろ会いたい』とか、『こんなふうに、一目ぼれするような男性は、今の世の中、絶対にいないわよね』とか、お話を聞いてくれた人たちは、いろいろな感想を言います」。
- 「安珍・清姫」の物語を絵巻を使って説明する道成寺の小野俊成院主
では、昔から伝わるこの話から何を学べばいい?
「それは皆さま、それぞれの心の中で答えを出してくれればいいのです。ただ、私は、例えば、ご夫婦で来られた、まぁ、ご高齢のカップルなどには、『妻宝極楽』という言葉を贈っています。これはこのお寺で作った言葉ですが、『大事な人は身近にいる。その人を大事にしなさい』という意味です。そうすれば幸せに近づける、こんな悲劇や事件は起きない。そして、旦那さまだけでなく、奥さんにも、努力が必要。ご自身を磨いて『宝のような妻』になってくださいと申し上げています」
実際、取材に行った日も、多くの観光客が座り込んで、住職の話に耳を傾けていたが、男女の両方に努力を求めるとこがミソなのか…。ご夫婦の両方が、うなずきながら聞き入ってる姿が印象的だった。
ちなみに、この絵巻、長さ約12メートルにもなる。今、使っているのは写本で、原本は室町時代からのもので、国の重要文化財として、お寺の奥に大事に保管されているとか。また、道成寺の境内にあった釣り鐘は、京都の「妙満寺」に移され、今、ここの境内で見ることはできない。
いずれにせよ、“妻宝”を目指して道成寺! いかがだろうか。【馬場龍彦】
日高町でクエずくめ
- クエのフルコース。鍋に刺し身…と豪華に並ぶ
「クエを食ったら、もうほかの魚はクエン」とか「漢字で書いても魚へんの付かない魚が『九絵』」とか…。いろいろ言われるクエ。それもこれもおいしいから。
このクエを、天然にこだわって出しているのが和歌山のクエの町・日高町だ。特に冬は鍋のシーズン。クエ鍋は3月までが旬。町にある民宿では競うようにクエの鍋を中心としたフルコースを提供している。
今回、立ち寄ったのが民宿の「はまゆう」さん。
クエ鍋、クエの薄造り、クエの唐揚げ、クエの酢の物、クエの雑炊、クエの胃袋、クエの肝とまさにクエずくめ。
「フグよりおいしいから。まぁ、食べてみんさい」とは、「はまゆう」のおかみさん。肉厚の身をたっぷりとよそってくれた。
フウフウ…しながらひと口、そしてふた口。これが何ともおいしい。あっさりしているのにコクがあるというのか。うま味たっぷりなのに、上品…。食べても食べても、まだまだ食べられそうな不思議な魅力。
「特に皮の近くはゼラチンがたっぷり、明日はお肌がツルツルになりますよ」
そういえば、この町のお父さん、お母さんたちは、肌艶がいい。
- 日高町は天然クエの町。巨大モニュメントも
ところで、どうして、ここ日高がクエの町に。
「江戸時代から、地元神社でクエを神前に運ぼうとする若衆のけんか祭りがありました。歴史的にもクエと深いかかわりがある。そして、昨年1月には『ニッポン全国鍋グランプリ2018』で、ここの『クエ鍋』が日本一に選ばれました」(商工観光課)。
さすが、冬の味覚の王様、クエ自慢になったら話は止まらない。
日本遺産 湯浅町の街並み
しょうゆ醸造の発祥の地として日本遺産にも認定された湯浅町は、白壁、土蔵、格子戸など昔ながらの町並みが今も残り、「重要伝統的建造物保存地区」にもなっている。
昔の商家やお風呂屋さんをそのままに残し、展示して見せている家もあれば、現在も実際に生活の続いているしょうゆ醸造の家や食事どころ…、それらを見ながら街歩きが楽しめる。
ぶらりと歩いて約1時間。
疲れたら、店の軒先で売っている有田みかんを買って食べる。
これが安くて、10個ほど、ビニール袋に無造作に入って売られていたが、どこでも100円。そしておいしかった。
もし、本格的におなかがすいている場合は「シラス丼」がお薦めだ。
県内一の水揚げ量を誇る湯浅の「シラス丼」は、白いご飯にシラスをのせ、そこにしょうゆをかけて食べるだけのシンプルなものだが、これが、さっぱりしてなんともおいしかった。聞けば、このシラス丼の上に南高梅をのせる店、削り節をのせる店など、店々で独自の出し方があるようで、それもおいしそうだ。
- 日本遺産にも認定された湯浅の古い町並み
和歌山の観光問い合わせは「わかやま紀州館」【電話】03・3216・8000。
「紀州日高のクエ」の宿は「日高町旅館民宿組合」【電話】0738・63・3535。