『どんな大人の中にも外に出たくてしょうがない小さな子供がいる』とは、あのウォルト・ディスニーの言葉。

そう、随分、旅、待ちましたよ。10月初旬、羽田空港。今回、向かったのは高知。機内も9割方は埋まっていた。天気、秋晴れ。富士が雲の上に頭だけ見事な三角形をのぞかせていた。富士を機内から見るのも本当に久しぶりでうれしくなる。


◇仁淀川は屋形船で自然満喫


午前11時着。

ここからはバスで巡る。巡るといっても高知県内を西へ西へである。まずは、仁淀川の屋形船船着き場へ向かう。「仁淀ブルー」満喫が狙いである。

四国には吉野川、四万十川、そしてこの仁淀川と大きな川が三つ。いわゆる四国・三大河川がある。

なかでも四万十、仁淀川は鮎釣りの名所として知られ、さらに、数多くの沈下橋が架かるところも似ている。

では違いは? キャッチコピーの差…。仁淀川は「仁淀ブルー」。四万十は「最後の清流」。要はどちらも見事に美しい川。

仁淀の川面は確かに澄みわたり川底に泳ぐ鮎まで手にとるように見えた。が、色はブルーというよりは薄緑に見える。

「ブルーに見えるのは川底の藻や石の色の関係もあります。まぁ、これからの冬が特にきれいに青く見えますね」と屋形船のガイドさん。

ただ、この屋形船からの景色は、いかにもゆったりとした豊かな山里の景観である。薄紫色のギボウシが今年最後の小さな花を咲かせ、白鷺が時折り悠々と飛んでいる。遠くには鮎釣りの竿を出す釣り人。悠然とした自然が心を和ませていく。

この船上では「屋形船弁当」。鮎がごちそうだ。要予約(1300円)だが、川風を感じて食べるお弁当は格別に旨いのである。


◇酒は辛口、男も辛口?

     

さて、続いて向かったのが佐川(さかわ)町。今回はバスで巡ったが、電車なら土讃線で高知駅から約1時間。山之内一豊の家老・深尾氏が開いた城下町である。

駅から10分ほどのところに地元の名酒「司牡丹」の酒蔵が建つ。85メートルもの長い塀が続き、その向こうには煙突。まさに酒の街の風情である。

ところで、高知の人は酒に強いとよく言われる。

「ここでは、一升、二升を酒、少々と言います」とガイドさん。酒は主に辛口である。海が近く、皿鉢料理など魚に合う酒は「どうしても辛くなる」とか。

「そう、酒は辛口!」

人生、甘口の反省を込めて…。

ところで、この佐川は、植物学者・牧野富太郎や元宮内大臣・田中光顕(みつあき)らを輩出した地。牧野氏の牧野公園や田中光顕の蔵書・資料などを公開している青山文庫など歴史的文化的な見どころの多い街。もし時間があればゆっくりと見て回りたい街である。


日暮れが迫ってきた。

この佐川を後に、一路、宿へと向かう、宿は四万十川の河口に広がる中村市。「土佐京都」とも呼ばれる、ここも城下町だ。

夕食の酒は「司牡丹」かと思いきや「藤娘」。四万十の伏流水に技を込めてつくられた地酒。いやぁ、確かに高知は、水どころ、酒どころである。この酒も旨い。グイグイとやって「さて明日は?」と思いを巡らすまもなく爆睡に落ちていた。


◇「伊予灘ものがたり」ラストラン


翌日、目覚めれば連日の澄み渡る青空。

今回の旅のハイライト・四国・愛媛の美しい海沿いを走る観光列車「伊予灘ものがたり」に乗車する。

この電車は、今年の12月27日をもってラストランを迎える。しかし、ラストランといっても単なる「さよなら」ではない。装いを新たに来春にはニュー「伊予灘ものがたり」の誕生が決まっているのだ。

そもそもこの列車「伊予灘」の「ものがたり」とはどんな物語だったのか?

2014年、観光列車が全国的に注目を集め始めたころ、四国の人気観光地「道後温泉」への誘客路線としてスタートした。四国愛媛の美しい西海岸の景観を目で味わい、おいしい食事を車内で取りながら「道後温泉まで…」というコンセプトである。この観光列車は約90%もの高い乗車率で走る。スタート時から大変な人気だ。

その成功の要因には

「地元の人との一体感あふれる協力が大きかったと思います。沿線では地元の人たちが大漁旗を振ってくれたり、ペットを抱いて道に出てきてくれたり。そして、電車に乗っている乗客も手を振り返す。これで、本当に地元と観光客の一体感がでて、自然な応援体制ができました」。

JR四国で広報を担当する松尾怜さんが話してくれた。

また、実際に乗車してみて感じたのは、アテンダントをしてくれる女性乗務員のおもてなしの気持ちが暖かいということ。忙しい中、写真の注文にも笑顔で応じてくれる。当たり前(仕事)といえばそうなのかもしれないが、ここでも情は通じ合う。その暖かさが「旅の物語」を豊かに膨らませてくれた。そう、約2時間の物語を紡いで列車は静かに松山駅のホームへ。新たなものがたりの期待も膨らませながら--。